本研究は、自発分極の双安定性によって現れる分極誘起抵抗変化現象に着目した新しいメモリ素子の実現を目的とし、その動作原理の基礎的理解と特性向上に関連した研究を進めるものである。その動作機構としては、強誘電体層を挟持する2種類の電極内における金属電極の仕事関数の違いに抵抗変化特性が強く依存しているとされているが、これまで報告されてきた酸化物強誘電体では、分極誘起抵抗変化が顕著に現れる超薄膜試料で使用できる電極種に制限があるため、電極種の違いに関する系統的な考察はなされていない。 本研究では、強誘電性の発現に際して基板種の制限を受け難い高分子強誘電体VDF/TrFE共重合体に着目し、膜厚10 nm以下の超薄膜試料を異なる電極種上に作製し、その電気伝導性の評価を行うことで、金属電極種の違いが分誘起極抵抗変化効果に与える影響について検討を行った。その結果、同種金属を両面の電極として用いた場合、抵抗は自発分極の向きに依存しないことが示されたとともに、異種金属の組み合わせを、それぞれ上部、下部電極として用いた場合、自発分極が仕事関数の大きな電極から小さな電極の方向を向いたときに抵抗が増大し、仕事関数の差と抵抗の比の間に相関関係があることが明らかになった。 また、より極薄の強誘電体層の形成を実現するため、原子レベルで平坦なアモルファス合金電極を作製し、その上に結晶性に優れたVDF/TrFE薄膜を形成する条件を見出すことができた。この時の平均膜粗さは5nmであり、絶縁破壊なく分極反転が可能であることも確認できた。 以上のような薄膜試料においては、分極反転に伴う抵抗変化が10~100倍現れることを確認しており、抵抗変化を利用した不揮発性メモリ素子への応用可能性を実験的に示すことができたといえる。
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