研究課題/領域番号 |
25790054
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
近松 彰 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40528048)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピンエレクトロニクス / 表面界面物性 / 結晶成長 / エピタキシャル / 物性実験 |
研究概要 |
フェルミ準位上の電子が完全にスピン偏極しているハーフメタル物質は、次世代の省エネ技術であるスピントロニクスデバイスに必要不可欠な材料である。その中で、磁気モーメントがゼロである反強磁性ハーフメタルは、第一原理計算により多くの物質が予測されているが、未だ完全な反強磁性ハーフメタルの合成例はない。本研究では、反強磁性ハーフメタル候補物質の中でもダブルペロブスカイト型酸化物に着目し、それらの高品質な単結晶薄膜を作製することで、反強磁性ハーフメタル実現のための知見を得ることを目的とした。 はじめに、反強磁性ハーフメタル候補であるCr置換SrRuO3薄膜の研究結果について記述する。SrRuO3はキュリー温度(TC)が166 Kの強磁性金属であり、BサイトをCrに50%置換したものは反強磁性ハーフメタルとして予測されている。一方、Crを少量(10%)置換したものはTCが188 Kと上昇することが知られている。そこで、パルスレーザー堆積法によりSrRu0.9Cr0.1O3エピタキシャル薄膜を作製し、Cr置換の効果について調べた。その結果、電子分光測定によりCr 3dt2g軌道がRu 4dt2g軌道の混成している様子を明瞭に観測し、TC上昇がBサイトイオンの軌道混成によるものと結論付けた。 次に、Bサイトが秩序配列したSr2MgMoO6薄膜の作製を試みた。このSr2MgMoO6を酸化物基板と反強磁性ハーフメタル候補のダブルペロブスカイト薄膜との間に挿入すれば、Sr2MgMoO6層からのエピタキシャル力により、薄膜のBサイト秩序配列を促すと考えられる。パルスレーザー堆積法で基板温度と酸素分圧を変えて作製した結果、酸素欠損した導電性を持つSr2MgMoO6-δ薄膜が得られた。また、この薄膜を大気中でアニールすることで酸素欠損がなくなり、絶縁体であるSr2MgMoO6薄膜を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、①反強磁性ハーフメタル候補物質であるLaSrVMoO6薄膜の作製と評価、②SrRuO3薄膜のCr置換効果についての調査、③シード層として利用するBサイト秩序配列Sr2MgMoO6薄膜の作製を行った。 ①のLaSrVMoO6薄膜の作製では、LaSrVMoO6のエピタキシャル薄膜の作製に成功し、多結晶試料よりも低い電気抵抗率を示すことを見出した。特に、(LaAlO3)0.3-(SrAl0.5Ta0.5O3)0.7 (111)基板上に作製したLaSrVMoO6薄膜の低温(5 K)における抵抗率は2×10-4 Ωcmまで低下した。これは、単結晶化による結晶性の向上、及び(111)配向したことで(V, Mo)サイトの配列が向上した結果生じたものと考えられる。また、5 Kにおいて磁化の外部磁場依存性を測定したところ、いずれの試料もヒステリシスを示さなかったことから、作製した薄膜が強磁性でないことが確かめられた。一方で磁化の温度依存性では、多結晶体SrLaVMoO6は反強磁性を表すカスプが104 Kに観測されたものの、薄膜では薄膜由来のシグナルが弱くカスプは確認されなかった。磁気特性の正確な評価が今後の課題である。 また、②、③の進捗は、研究実績の概要で述べた通りである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、反強磁性ハーフメタル候補Sr2CrRuO6薄膜の作製と評価を行う。また、これまで作製に成功したSr2MgMoO6をシード層に用い、LaSrVMoO6・Sr2RuCrO6薄膜のさらなる結晶性・Bサイト秩序率の向上を目指す。また、これら物質のアニオンサイト(酸素サイト)をトポタクティック合成法により水素やフッ素に置換し電子状態を制御することも計画している。これにより、Bサイトイオンの持つd電子の電子配置はそのままで、価電子帯の電子状態を変化させることができる。 薄膜の磁気特性評価に関しては、これまでの超伝導量子干渉計による磁気測定に加え、X線磁気円二色性測定により元素選択的にスピン・軌道磁気モーメント、磁気双極子モーメントを調べるなどして評価を行う。X線磁気円二色性測定は、KEK-PFなどの放射光施設で行う予定である。
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