フェルミ準位上の電子が完全にスピン偏極しているハーフメタル物質は、次世代の省エネ技術であるスピントロニクスデバイスに必要不可欠な材料である。その中で、磁気モーメントがゼロである反強磁性ハーフメタルは、第一原理計算により多くの物質が予測されているが、未だ完全な反強磁性ハーフメタルの合成例はない。本研究では、反強磁性ハーフメタル候補物質の中でもダブルペロブスカイト型酸化物に着目し、それらの高品質なエピタキシャル薄膜を作製することで、反強磁性ハーフメタル実現のための知見を得ることを目的とした。 はじめに、Cr置換SrRuO3の研究結果について記述する。強磁性金属SrRuO3のBサイトをCrに50%置換したものは、反強磁性ハーフメタルとして予測されている。一方、Crを10%置換したものはキュリー温度(TC)が166 Kから188 Kに上昇する。そこで、Cr置換における電子状態の変化を調べるために、パルスレーザー堆積法によりSrRu0.9Cr0.1O3エピタキシャル薄膜を作製し、電子分光測定を行った。その結果、TC上昇に関係しているCr 3dt2g軌道とRu 4dt2g軌道との混成の様子を明瞭に観測した。また、Crを50%置換したSr2RuCrO6エピタキシャル薄膜の作製にも成功した。 次に、Sr2MgMoO6の研究結果について記述する。Sr2MgMoO6はMgとMoのイオン半径の違いによりBサイトが完全に秩序配列しているため、これを酸化物基板と反強磁性ハーフメタル候補のダブルペロブスカイト薄膜との間に挿入すれば、エピタキシャル力により薄膜のBサイト秩序配列を促すことが期待される。パルスレーザー堆積法により様々な条件でSr2MgMoO6薄膜を作製しその化学組成と電子物性を調べた結果、酸素欠損量に対応した電気伝導特性を示すことが明らかになった。この結果は、Sr2MgMoO6を挿入層として利用する場合、酸素欠損量の制御が重要であることを示している。
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