研究課題
若手研究(B)
本研究では、シンクロトロン放射光励起による軟X線発光・吸収分光法を用いて薄膜型CIS化合物系太陽電池における光吸収層CIS(銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se))の非破壊的電子状態分析技術を確立する。本課題達成のために、従来のX線分光器では困難であった幅広いエネルギー帯域(1~3.5 keV)に現れるCIS化合物及び界面からの発光スペクトル(Cu-L(0.9 keV)、In-L(3.4 keV)、Se-L(1.4 keV)等)とその微細構造を高分解能・同時計測することができる新しい多層膜を応用したラミナー型(矩形状)不等間隔溝多層膜回折格子分光器を開発する。今年度はラミナー型不等間隔溝多層膜回折格子の設計及び前置鏡付分光器の製作を行った。先行研究で開発した回折格子(有効格子定数:1/2400 mm、溝深さ:3 nm、曲率半径:11,200 mm)をベースに、1~3.5 keV領域に結像特性を持つように新たに分光光学系を設計した。一定の入射角で当該エネルギー領域を高効率化にするために、基本周期長5.6 nmのNiとCからなる非周期多層膜構造を新たに考案し、これを多層膜回折格子として応用した。これにより、従来に比して取り込み角を大きくでき、明るい光学系の設計が可能となった。更に、上記の非周期多層膜構造をトロイダル面に積層した前置鏡として応用することで、全エネルギー領域で分解能300以上を期待できることが分かった。前置鏡付分光器の製作では、放射光実験施設での実験を想定して軽量・小型となるよう設計した。本装置は、上記の新分光光学系に準拠した位置に前置鏡、入射スリット、回折格子、検出器(CCD)等を設置でき、各調整機構により入射角や位置を高精度に設定出来るようにした。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標を概ね達成できた要因として、ひとつは、多層膜設計において光学特性を計算するために自作のプログラムコードを利用して膜構造を任意に設定し、入射角度依存性と波長依存性を明らかにできたことが挙げられる。また、本研究において新たに考案し、光学特性のシミュレーション計算に用いた非周期多層膜構造を所属機関が保有する成膜装置(イオンビームスパッタリング装置)で成膜可能であることも本研究課題の実現可能性の観点から重要であった。また、先行研究にて開発した回折格子を利用できることを見出せたことも本課題達成要因の一因として挙げられる。
イオンビームスパッタ法を用いて回折格子表面に誤差±1%以下の精度で非周期Ni/C多層膜を積層し、多層膜回折格子を製作する。膜構造は、X線回折パターンで確認する。次に、多層膜回折格子の回折効率を高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリ(PF)の軟X線ビームラインを用いて実施し、1~3.5 keVの全エネルギー領域に渡り高効率化が実現できていることを明らかにする。PFの利用にあたっては、共同利用実験のための課題申請を行う。更に、今年度製作した分光器に多層膜回折格子を搭載し、軟X線分光実験を行う。対象とする元素の吸収端近傍で元素選択励起し、CIS化合物から放出される軟X線発光スペクトルを計測すると共に、含有する元素ごとの全光電子収量スペクトルを計測し、両スペクトル間にある禁制帯幅等を明らかにすることで、本研究で開発した多層膜回折格子分光器がCIS化合物及び界面の非破壊的電子状態分析に有用であることを示す。
軟X線分光器の製作費が当初の見積額を僅かに下回ったため。研究費はPFでの実験に用いる分光器及び評価装置の運搬費(約4割)に用いる。残りは比較実験のためのエネルギー分散型X線分析費と旅費等(学会参加費を含む)に用いる予定である。
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Proceedings of SPIE
巻: 8848 ページ: 88481201-14
10.1117/12.2024652