(1)分子線エピタキシ(MBE)装置を用いて、GaAs(110)上にFeTb薄膜を成長する条件を検討した。本研究では基板面に垂直な方向に磁化を有する垂直磁化膜が重要であり、GaAs(110)基板上へMBE成長した例はなかった。昨年度までに、Fe/Tb多層膜(10周期、Fe:3.4nm/Tb:1.2nm)の成長を検討し、30emu/cm3程度の面直残留磁化が得られたが、磁化容易軸は面内方向であった。X線反射率測定結果から、多層膜界面に混晶化が起こっている可能性が示唆された。本研究にて使用しているMBE装置には基板冷却機構が備わっていないため、多層膜構造は適していないと判断し、本年度は高温成長においても垂直磁化特性が報告されているFeTbアモルファス合金を検討した。成長したFeTbアモルファス合金において、そのフェリ磁性の特徴である補償組成(Tb組成20%付近)および補償温度を確認し、成長方法を確立した。その上で、主に成長レートを上昇させることで垂直方向の残留磁化をもつ電極の作製を目指した。Tb組成を固定し、成長レートを上げていったところ、面直の飽和磁化が増大し、磁化が垂直方向に向きやすい傾向が明確となった。最終的に、Tb組成25%において成長レートを0.65nm/sに速めた結果、GaAs(110)基板上では109 emu/cm3の残留垂直磁化が得られた(GaAs(100)上では133 emu/cm3)。 (2)強磁性電極からGaAs(110)量子井戸への電子スピン注入についても検討を行った。昨年度までに、Fe/AlOxのMOS構造を有するLEDを作製し、1kA/cm2の高電流密度において7%程度の注入スピン偏極率が得られたが、100K以下の低温に限られていた。そこで本年度は、室温でも評価可能なようにLED構造を改善し、室温で9%程度の注入スピン偏極率を達成した。
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