研究課題/領域番号 |
25790069
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
野村 雄高 分子科学研究所, 分子制御レーザー開発研究センター, 助教 (50526887)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ファイバーレーザー / 超短パルス / 中赤外 / フッ化物 |
研究概要 |
本研究では、波長2 μm領域で発振するようなフェムト秒レーザー光源の開発を目的としている。本年度は、主にツリウム添加ZBLANファイバーを用いたレーザー共振器を開発し、そのモード同期を試みた。 ZBLANは赤外領域において吸収・分散の少ない物質であり、これを用いることでレーザーの高効率化・短パルス化が期待できる。実験では、ZBLANファイバーにツリウムイオンを添加したファイバーを用いてレーザー共振器を開発し、波長2 μm近傍でレーザー発振させることに成功した。この際のレーザー発振に必要な励起エネルギーは、石英ファイバーによる同等のレーザーよりも一桁程度少なく、従来よりも効率のよいレーザー発振器を開発することができた。 次に、パルス発振させるために、開発したレーザーシステムのモード同期を試みた。モード同期の手法としては複数考えられるが、より短いパルスを得られる手法として非線形偏波回転と呼ばれる手法を採用した。これは光パルスがファイバー内を伝搬する際にその偏光が回転する現象があるが、その回転の度合が光強度に非線形に依存するという現象を利用するものであり、この手法により光強度の高い部分を選択的に増幅することが可能となり、モード同期へとつながる。この手法を採用し、共振器の調整を行うことにより、モード同期をかけてパルス発振させることに成功した。 さらに、この出力パルスの時間幅を測定するため、周波数分解時間ゲート法を用いることにした。この手法は超短パルス測定のために広く使われているが、波長2 μm領域のパルスの測定に用いられた前例はあまりないため、自分で組み上げた測定装置を用いた。この測定を元にレーザー発振器を調整した結果、最終的に時間幅45 fsという非常に短いパルスを達成することができた。これは波長2 μm領域のレーザー発振器から発生したパルスとしては世界最短のパルスである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では主にZBLANファイバーを用いたレーザー共振器の開発およびそのモード同期を目標としていたが、これらの目標はいずれも達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発したレーザー共振器をもとに、この出力を増幅するためのシステムを開発し、出力パルスのさらなる高出力化を目指す。 増幅器には、ZBLANを材質としたダブルクラッドファイバーを用いる。ダブルクラッドファイバーとは、コアの周りにクラッド層を2つ持つようなファイバーであり、コアだけでなく内側の第一クラッドでも光をガイドできるのが特徴である。このようなファイバーを用いれば、集光が難しいハイパワーの励起光を用いた場合でも効率よくファイバーに結合することが可能となる。これにより、効率よくコアを励起することが可能となり、ハイパワーの増幅が可能となる。 なお、ZBLANは石英よりも赤外領域における吸収が少ないため、より高効率であることが予測されるが、熱に弱いという報告もあるため、問題が大きい場合はZBLANと石英の中間程度の性質を持つとされるフッ化アルミニウム製のファイバーの使用も検討する。 また、増幅の際、ファイバー内での電場強度が高くなりすぎると非線形過程が起こり、さらにはファイバーの損傷を引き起こす可能性がある。強度を抑えつつ増幅するためにチャープ・パルス増幅という手法を用いる。これは、分散によってパルス幅が伸びた状態のまま増幅し、その後でパルス圧縮系を用いて時間幅を縮めるという手法である。これにより、増幅時のファイバー内での非線形効果を抑制しつつ、パルスの増強が可能となる。 パルス圧縮系としては、原理的には共振器で用いる物と同様の系を用いることが可能であるが、実際には強度が上昇しているために熱や非線形性による問題を抑制する必要がある。このため、シリコンプリズムやレンズのような透過型光学素子ではなく、回折格子や球面鏡などの反射型の素子を組み合わせることにより問題の回避を試みる。
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