本研究は、エネルギー広がりが大きい2~3MeV程度のエネルギーを有する電子ビームのシングルショット縦方向位相空間測定手法の確立を目的として研究を行った。 測定精度について、光学系のレイトレース計算を行い評価した結果、理想的な状態では、縦方向位相空間を可視化するために必要な精度を有していることが明らかとなった。また測定精度に対する各光学素子の設置誤差についての影響を評価したところ、放物-球面鏡のビーム軸方向に対する設置誤差の寄与が最も大きいことがわかった。縦方向位相空間測定におけるエネルギーの絶対精度を向上させるためには、きわめて薄いチェレンコフラジエーター(疎水性シリカエアロゲル製)の真空中での屈折率を把握する必要があったので、真空中でラジエーターの屈折率測定を実施し、大気圧で測定した値とほぼ同じであることを確認した。実験に使用する放物-球面鏡を作製し、表面形状と面精度の評価を行った結果、形状はほぼ設計値通りであったが、表面精度は極めて悪く、測定された面精度を考慮して測定システム全体のシミュレーションを行った結果、作製した放物-球面鏡では目標とする測定精度を達成することが極めて困難であることが判明した。しかし作製手法についての知見が得られたため高精度な鏡が作製可能になると考えている。 チェレンコフラジエーターの評価は、東北大学電子光理学研究センターの試験加速器(t-ACST)のビーム診断部で実施し、ほぼ想定通りのチェレンコフ光が放射されていることを確認した。またビーム照射時の真空悪化についても、ビームOFF時と比較して真空度が一桁程度悪化するのみであった。ビーム照射前後のシリカエアロゲルを比較しても、差異は認められず、これらの結果から測定場所すなわち高周波電子銃や加速管の近傍など超高真空を要求される場所へチェレンコフラジエーターを設置することが可能であることが明らかとなった。
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