研究課題/領域番号 |
25790083
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
松村 大樹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究副主幹 (30425566)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | X線吸収分光 / パラジウム微粒子 / 不均一系触媒 / 実時間分割観測 |
研究実績の概要 |
本研究は、パラジウム金属微粒子上に形成されるパラジウムカーボン層をターゲットとし、実時間分割X線吸収分光測定を通じて、その表面・触媒反応の進行機構を明らかにすることを目的としている。パラジウム金属微粒子上のパラジウムカーボン層は、申請者が形成過程を明らかにしたものであり、その表面・触媒反応の機構は未だ不明な点が多い。本研究では、分散型光学系を用いた実時間分割X線吸収分光測定の高度化を行うことで、その相対精度を高めることにより、これまでに観測できなかった微細な構造・電子状態変化を明らかにして、反応機構を解明しようと試みるものである。 分散型光学系の心臓部である湾曲分光結晶は、集光と分光とを兼ねており、少しの熱膨張に伴う結晶歪がスペクトル測定に大きな影響を与えるため、極めて精密な温度制御が必要である。本研究の初年度である平成25年度においては、0.01 Kの温度精度を持つ精密恒温循環槽を購入し、湾曲分光結晶の冷却循環水に対して使用して、湾曲分光結晶の高い安定性を実現することができた。その結果、アルミナ担持パラジウム微粒子(4重量%)に対しての、2 Hzの実時間分割X線吸収分光測定においては、最近接原子間距離に対して100 fmの相対精度を達成することに成功した。 本研究の二年度である平成26年度においては、パラジウム微粒子に対して、パラジウムカーボン層の形成・消失過程に関する温度・濃度・担体依存実時間分割X線吸収分光測定を行い、その速度論的解釈を行った。その結果、アルミナ担体においては容易にパラジウムカーボン層が形成されるものの、ランタン鉄酸化物担体においてはパラジウムカーボン層がほとんど形成されないなど、強い担体依存性を持つことなどの特徴を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は当初の予定においては、平成25年度から平成26年度までの2年間の期間であった。平成26年度に補助期間延長申請を行い、それが認められることで、研究期間が平成27年度までの3年間に変更された。 初年度における精密恒温循環槽の導入及びそれを用いた分散型光学系の高度化においては、概ね当初の目的を達成されたものと判断している。しかしながら、いくつかの点において、より高質の実時間分割X線吸収分光測定を行うという観点から、満足のいかない部分が残っている。 問題点の1つは、温度制御の長時間的なシフトである。精密恒温循環槽の導入により、10分程度の実時間連続測定においてはこれまでにない高い相対精度が得られているが、1時間程度以上の実時間連続測定に対しては、X線のシフトがやや観測されて、充分なデータが得られていない。 もう1つは、試料ムラの克服に関する問題である。分散型光学系によるX線吸収分光測定は、異なるエネルギーのX線が100マイクロメートル程度の幅に集中しているため、試料の厚み・濃度ムラの影響を大きく受ける。これは当初の予定では検出器の改良とペレット作成方法の改良により克服する予定であったが、現在は決定的なデータの質の向上がなされていない状態である。 以上の問題ゆえに、測定データの質は研究開始前より確かに向上したものの、もう一段階のステップが必要なものと思われ、研究目的の達成度に関しては、現時点ではやや遅れていると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
延長された本研究課題の最終年度である平成27年度における研究の進め方は、実時間分割X線吸収分光測定の長時間測定で観測されるシフトと、試料ムラに伴うデータの歪という、2つの問題の克服に重点的に取り組む。 実時間分割X線吸収分光の1時間を超えるような長時間測定におけるシフトに対しては、外部からの熱源の流入を現状よりさらに防ぐことが1つの方針となる。平成27年度においては、湾曲分光結晶を内蔵するチェンバー自体の恒温化を施すことで、その解決を図る。 試料ムラの問題に対しては、堆積法を用いたペレットの作成に今以上に取り組む。試料が変性しない程度に試料を擦り潰すことも重要であると認識しており、遊星ミルの回転パラメータの最適値を探り、よりX線吸収分光測定に有効なペレットを作成する。 現時点においてこれまで以上の質の高いデータを求めるという課題はあるものの、多くの担体・温度・濃度に対してすでに有効的な測定を多く行い、実のあるデータが得られている。X線吸収分光国際会議への参加などを契機として、実験結果に対する議論を多く行い、遅れている論文作成に励む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の初年度である平成25年度において、精密循環恒温槽を導入したが、購入前に仕様を更に精査することにより、当初の予定金額よりも安い金額において装置を導入することができた。よって、本研究の2年度である平成26年度に相当量の額が繰り越された。 該当電度である平成26年度においては、外国出張を複数回行う予定であったが、X線実験の日程と都合がつかず、外国出張が1回に留まった。故に、相当量の額が繰り越し対象となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、外国出張として、X線吸収分光国際会議に出張し、自身の研究成果を発表すると共に、有識者と多く意見を交わすことにより、実験結果の更なる理解、ひいては論文作成のための契機とする予定である。次年度使用額は、そのための外国出張費として主に使用する予定である。
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