研究課題
重粒子線治療におけるPET装置を用いた照射野のリアルタイムイメージング技術の実現のために陽電子放出核である10/11C核種を一次ビームとして治療室へ供給する方法を検討している.この方法ではイオン源にて10/11Cイオンを生成し,後段のシンクロトロン等の加速器によって治療に必要なエネルギーまでそれらのイオンを加速する.この方法を実現する為には高純度の10/11CH4分子を1013個程度生成しなければならない.本研究の目的は,そのガスの生成を行う10/11CH4分子生成/濃縮装置を開発する事である.この装置には,クライオクーラーによって冷却された不純物トラップ及びメイントラップが真空チェンバー内に備わる.これらのトラップにより蒸気圧の温度依存性が分子種ごとに異なることを利用してメタン分子と不純物分子の分離を行う.不純物トラップの温度は100 K程度に冷却され,比較的蒸気圧の低い分子がその表面に凝縮する.一方でメイントラップは40 K程度にまで冷却され比較的蒸気圧の高い窒素分子やメタン分子が凝縮する.このメイントラップにはヒーターが備わりそれにより温度調整を行うことでメタン分子或は不純物を気化させて選択的に取り出す事ができる.26年度においては,10/11CH4分子生成/濃縮装置の性能評価実験をさらに進め,~10-100倍の窒素ガスを分離出来ること,CH4ガスと蒸気圧の近い酸素に於いても分離が十分に可能であることが明らかになった.さらに,11CH4分子の輸送,及び同位体(12C)分離の際に必要となる一価イオン生成用電子衝撃型イオン源の設計を行った.イオン化領域に流入/流失するメタン分子,及びメタンイオンのバランスを考慮したイオン化効率の計算を行い,その結果を元に設計を行った.製作したイオン源により電子ビームの基礎特性試験を行い,要求される電子電流量を得られることが明らかになった.
2: おおむね順調に進展している
交付申請書には平成26年度以降の計画として,小型サイクロトロン(HM-18)へ生成/濃縮装置を設置し分子生成システムの構築を完了させることを挙げていた.施設運営上の都合から,このHM-18への設置は難しいことが判明したため,昨年度提出の実施状況報告書(平成25年度)にて,(1) 11CH4分子の輸送の際に必要となる一価イオン生成用電子衝撃型イオン源の設計・開発すること,(2)本システムを放医研サイクロトロン施設へ設置する際に必要となる新たなビームトランスポートの設計を行うこと,の二つを今後の推進方策とした.これまでに(1)については,設計・開発し,基礎的な性能評価試験を進めることが出来ている.さらにこの1価イオン源は分析電磁石,ファラデーカップを含む質量分析システムに接続され,今後イオン化効率の詳しい調査を行える状況にある.また,(2)についても放医研大型サイクロトロン(AVF930)より伸びるビームトランスポート,照射システムの設計は完了している.
本年度は,これまでに開発した10/11CH4分子生成/濃縮装置1価イオン源を組み合わせ,安定同位体ガスを用いて分子種の分離と同位体分離の試験を通して行い,本システム実用可能性を調査する.これらの結果は投稿論文,学会発表等により発表する.
当初の見積りに比べて,安価に購入できた物品が有ったため.
電子部品,消耗品の購入に用いる
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Proceedings of the 11th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan
巻: 2014, Aomori ページ: 1360-1362