研究課題
若手研究(B)
本年度は、XFELを用いた波長分散型の直接X線吸収、および蛍光収量型の間接X線吸収の2つの分光法を開発した。波長分散型の吸収分光法は回折格子を用いてX線をスプリットし、2本のX線の片方のみをサンプルに照射してスペクトルを計測する。サンプルを通過していないもう片方のスペクトルを参照として用いることで規格化を行い、吸収スペクトルを取得する。蛍光収量型の吸収分光法では、XFEL実験用に開発された2次元検出器(MPCCD)を用いてサンプルからの全蛍光量を計測する。入射X線波長を掃引しながら蛍光量を計測することにより吸収スペクトルを取得する。これは高感度、広範囲のダイナミックレンジ、広い検出面積を持つMPCCDの特徴を活かした手法である。開発した2種類の分光法と266nmおよび400nmの光学レーザーを組み合わせてポンププローブ実験を実施した。サンプルには鉄錯体水溶液を用いた。実験では、インジェクターとポンプを使用して水溶液をジェット状に噴射し、XFELと光学レーザーを同一の場所に照射した。溶液ジェットを用いることにより、ショット毎に常に新しいサンプルを照射領域に供給することが可能になる。光学レーザーの照射後、Fe K吸収端構造が1ps以内に変化することを観測した。観測された超高速励起は光学レーザー照射後、100ps経過しても減衰が顕著ではなく、長寿命の励起種であることが判明した。励起種の解明にはまだ至っていないが、1ps以下の時間分解能で起こる超高速の化学変化の追跡に今回開発した時間分解X線吸収分光法が有用であることを実証した。
2: おおむね順調に進展している
1年目は元々、時間分解X線吸収分光法の開発を予定していた。1年目である本年度は分光法開発の成功に加え、光学レーザーと組み合わせることで時間分解測定を実施した。この実験により開発した新手法が、超高速の化学変化を追跡するのに有効であることを実証できた。このため、申請時の予定と比較しても順調に進展しているといえる。
これまでにXFELによるX線吸収分光法の開発を行い、それを用いて時間分解計測を実践した。研究の進捗は予定通りといえる。今後は、XFELと光学レーザーの相対時間の揺らぎ(タイミングジッター)による時間分解能悪化を補正する手法の開発を行う。この補正により、2つの光のパルス幅(XFEL:10fs以下、光学レーザー:~50fs)で決まる内在的に到達可能な時間分解能を達成できると考えられる。100fs未満の時間分解能で計測ができれば、今まではできなかった時間スケールで時間分解X線吸収分光を行うことが可能となる。光反応では、ポンプ光照射による超高速の電子励起が構造変化の駆動力となるモデルが一般的である。フェムト秒時間分解X線吸収分光の開発により、光反応の初期過程である電子励起が特定原子の電子構造にどのように反映されているかを詳細に観察できるようになると期待される。
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Optics Express
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