研究課題/領域番号 |
25800004
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 知行 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (70609289)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 関数体のラングランズ対応 / 数論的D加群 / p進コホモロジー |
研究実績の概要 |
本研究の目標は有限体上のp進係数である過収束Fアイソクリスタルに対するラングランズ対応の構築であった.これは有限体上の曲線の関数体に対して,その(ある種の)尖点的保型表現と過収束Fアイソクリスタルが関数体の各座に対するヘッケ固有値とフロベニウス固有値が一致するような一対一対応が存在することを予想するものである.これに関しては昨年度証明が完成していた.この研究をもってp進コホモロジー論はほぼ完成されたと言ってよい. 本年度は多様体に関するさらに深い情報を持ったコホモロジー論の候補を探すため,複素数体上の射影的で滑らかな多様体のChern類に関する研究を行った.過収束Fアイソクリスタルの理論やそれを含む数論的D加群の理論の複素数体類似は斎藤盛彦氏によるHodge加群の理論またはSabbah氏や望月氏による捩れHodge加群の理論であるということができる.これらの証明の中核にはSimpson対応というある種の積分可能接続付きベクトル束とヒッグス束の対応があり,これはUhlenbeck-YauのHermitian-Einstein計量(以後HE計量)の存在問題をコホモロジー論としてとらえた結果とみられる.HE計量が存在すると1, 2番目のChern類に関する不等式(Bogomolov-Gieseker不等式)が導出されることはよく知られている.近年Bayer, Macri, Todaにより2, 3番目のChern類に関する不等式が予想されており,これがHE計量の“一般化”の問題と捕らえられれば,Simpson対応より深い情報を持ったコホモロジー論への道筋が見えてくるはずである.本年度はHE計量の一般化に向けた基礎的な研究を行い,階数1のベクトル束に対する方程式の候補を発見したが,残念ながら容易には一般化出来ないようであり,来年度以降の研究課題となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画段階にはなかったアイディアである,Beilinson圏同値のp進係数類似を用いた6つの関手の構成法を用いて数論的D加群の理論が一般のスキーム上で構成されることにより,去年既にラングランズ対応は構成した.今年は将来を見据えた新たなコホモロジー論に向けての実験的考察の年であり,問題の定式化まではいたらなかったものの,当初の計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
有限体上の曲線の場合はラングランズ対応を構成することにより,基本的問題解決された状況であるが,高次元の場合の過収束Fアイソクリスタルに関しては,期待されているものの分かっていない未解決の問題もある.その一つはBertini型の問題,つまり多様体上の既約な過収束Fアイソクリスタルがあり,多様体のある点を取ってきたときその点を通るような曲線でアイソクリスタルをその上に制限しても既約制が保たれるようなものは存在するか,である.この種の定理が示せれば高次元の問題を曲線の問題に帰着することができ,ラングランズ対応を用いることで様々な応用がある.このように今後はアイソクリスタルの成す淡中圏に対する基本群の性質を研究する予定である. 一方,前年度に引き続きHE計量の一般化に向けた研究もきわめて重要であり,Bayer, Macri, Todaによる予想の微分幾何を用いた定式化の研究も同時に行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に中期のヨーロッパへの出張が予定されているので,そのために使う旅費を考慮して前年度の科研費を使用した.
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次年度使用額の使用計画 |
ヨーロッパの出張に用いる予定である.
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