研究実績の概要 |
2014年度は, D型特異点の安定性条件の空間について研究を行った. A型特異点の場合は, 石井-植田-上原による研究成果が知られている. 彼らの結果をD型の場合に拡張することが, 2014年度の主な研究目的であった.
もともと, Bridgelandにより提示された予想では, 2次元のCalabi-Yau圏上の安定性条件の空間の連結性と単連結性が予想されている. これと, 他の予想(K(\pi,1)予想)と照らし合わせると, 安定性条件の空間の可縮性が期待できる. 申請者がもともと問題としていたのは, K3曲面の場合であった. しかし, 具体的な解決案が得られなかったので, K3曲面のときよりも易しいはずの, D型特異点の場合に研究を進めることにした.
このときに問題となるのは, D型特異点上のpureな層がどれくらい存在するか?という問題である. A型ではない場合は, 考えるスキームが被約でなくなるという困難が生じる. 2014年度の研究により, D_4型特異点の場合に, 被約なスキーム上の直和に分解しないpureな層の分類は完了した. これらの結果は, 一般のD_n型の場合に拡張できることが期待できる. ただ, もともとの問題と照らし合わせると, 被約でない場合が本質的であり, 被約な場合に一般のD型特異点上のpureな層を分類することは, 費用対効果の悪い問題である. 従って今後は被約でないD_4型の場合にpureな層を分類することが重要となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究を始めた当初は, A型特異点の場合の結果をルートを用いることで簡単に一般化できると期待していた. ただ, 実際に初めてみると, D型特異点の場合に, 特異点上の層とルートとの対応は, A型の時ほど安直には成り立たないことがわかった. 当初の問題の難易度の評価が甘かったことが, 研究進度が遅れている理由である. ただ, ルートとの対応が見えないなかで, 部分的には進展している点は肯定的に考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
全体の支給額は70万であり, 70万円における9000円は割合に換算すると1%未満である. よって, 誤差と呼んで差し支えない. また, 残額が9000円ほどになったので次年度のお金と合わせて教科書の購入か, または研究集会への出張にあてるつもりでいるからである.
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