研究課題/領域番号 |
25800014
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳田 伸太郎 京都大学, 数理解析研究所, 助教 (50645471)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 変形W代数 / Ding-Iohara-Miki代数 / 頂点代数 / Hall代数 |
研究概要 |
主にK理論的AGT予想とそれに纏わる代数系について研究を進めた。この予想は、平面上のインスタントン・モジュライ空間の同変K群に変形W代数が作用し、その作用のもとで構造層のK群でのクラスが変形W代数のWhittakerベクトルに対応するというものである。 本年度の5月まではDing-Iohara-Miki代数のHall代数としての性質を研究した。Bridgelandの仕事により, Hall代数のDrinfeld doubleは複体のHall代数と思える。そこで私は複体のHall代数の余積構造を調べ、余積の明示化に成功した。この結果はプレプリント"Bialgebra structure on Bridgeland's Hall algebra of two-periodic complexes" にまとめた。 本年度の5月から8月にかけては、(A,H,S)-vertex algebraという代数系について研究した。私はこの代数系の明示的構成を数例行い、またBeilinsonとDrinfeldのchiral algebra並びにfactorization algebraとの関連を研究した。また量子版の例についても研究した。これらの結果をプレプリント"Classical and Quantum Conformal Field Theories" にまとめた。 9月以降は変形Virasoro代数のWhittakerベクトルの研究を開始した。特に粟田と山田による、Whittakerベクトルの自由場表示のMacdonald対称多項式に関する明示公式の予想に取り組み、解決した。また平面上の点のHilbert概型の幾何との関連も調べた。特にHaimanによる、Hilbert概型の同変K理論とMacdonald対称多項式との関連づけをWhittakerベクトルの明示公式に活用することが出来た。以上の結果はプレプリント "Whittaker vector of deformed Virasoro algebra and Macdonald symmetric functions"にまとめた。 2月以降は変形Virasoro代数の表現論について纏めた論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究は代数的な視点に基づくものが中心となった。主に変形W代数及びDing-Iohara-Miki代数を扱った。 K理論的AGT予想に現れる変形W代数は、頂点代数であるW代数の変形版であり、それはもはや頂点代数ではなく、明示的な自由場表示を持つという点を除くと扱いが難しい対象である。Ding-Iohara-Miki代数は後者は(位相的)Hopf代数であるため、余積を使った計算が可能であり、扱いの難しい変形W代数に新しいアプローチを提供するものと期待されている。 9月以降の変形Virasoro代数のWhittakerベクトルの研究ではDing-Iohara-Miki代数のFock表現を用いた手法が中心となった。「研究の目的」でも触れたが、この代数はK理論的AGt予想の代数サイドでの中心的な対象である。今回の研究でこの代数の様々な実現同士の関係を理解することができた。特にHilbert概型の同変K理論に関するHaimanの理論との関係を理解できたことには満足している。 5月から8月にかけての(A,H,S)-vertex algebraの研究は、「研究の目的」作成時点では含まれていなかったが、次項の「今後の研究の推進方策」で述べる様に、発展性のある話題であると考えている。この概念はBorcherdsが頂点代数の理論の簡明化の為に導入したものであり、その量子版と呼ばれるある種の変形版は変形W代数の研究に有用であると期待している。 変形Virasoro代数の文献に関して、Virasoro代数に関しては既に豊富な文献が存在するが、変形版に関しては文献が散逸的なのが現状であり、纏まった文献を出すことには価値があるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2014年度の前半はFrenkel-Reshetekhinのdeformed chiral algebraとquantum (A,H,S)-vertex algebraの関係を研究する。前者は変形W代数を含む代数系であり、K理論的AGT予想と関係する。後者については、一般コホモロジー理論と関係があると期待している。 幾何学的表現論、例えば箙多様体のトーラス同変コホモロジーには様々な代数が作用するが、どれも頂点(作用素)代数と関係している。代わりにK群を考えると、それらの代数を変形したものが作用することが期待されていて、実際多くの箙多様体のクラスでそれが確かめられている。頂点代数の変形については、現状ではad hocな構成が知られているのみであるが、コホモロジー理論との対応をつけることができれば、なぜK群に作用する代数が頂点代数の変形と関連するか、概念的に理解できると期待している。 今年度の中期ないし後期では、Hall代数とR行列の関係について理解を深めたい。Hall代数にはGreen coproductと呼ばれる余積構造があるが、「良い」Hall代数の基底をとってGreen coproductを表示することができたら、多くの場合それは既知のR行列の表示と関連すると期待している。「良い」基底の構成には表現のAbel圏(ないしその導来圏)における安定性が必要であるとも期待している。 特に代数曲線のHall代数に関しては、曲線上の連接層の導来圏の安定性の空間の構造とR行列のfactorizationが関連するものと期待している。
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