研究課題/領域番号 |
25800014
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳田 伸太郎 京都大学, 数理解析研究所, 助教 (50645471)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 変形W代数 / Hall代数 / モジュライ空間 |
研究実績の概要 |
今年度の前半は、K理論的AGT予想のうち最も簡単な場合である、変形Virasoro代数のWhittakerベクトルのノルムと階数2のK理論的Nekrasov分配函数との関係を研究した。コホモロジー的AGT対応のZamolodchikov型漸化式による証明の差分アナログをとり、証明を与えた。また変形Virasoro代数の表現論について要約した。以上の結果をプレプリントNorm of the Whittaker vector of the deformed Virasoro algebra(arXiv:1411.0462)にまとめた。 今年度の後半は主にHall代数とgln型量子トロイダル代数を調べた。後者はn=1の場合K理論的AGT予想と深く関係する。gln型量子トロイダル代数の重要な性質にSL(2,Z)タイプの自己同型を持つことがある。n=1の場合の自己同型の存在はBurban-Schiffmannの仕事により、この代数を楕円曲線上の連接層の圏に付随したHall代数のDrinfeldダブルとして実現することで理解できる。 この描像を一般の自然数nの場合に拡張した。相対的に極小な楕円曲面の特異ファイバーを考え、その上の連接層の圏に付随したHall代数を考えればトロイダル代数が得られる。また自己同型は相対的Fourier向井変換から誘導される。ここでFourier変換に関する技術的な障害の回避のためモチーフ的Hall代数を用いた。このため、代数曲線上に付随したHall代数に関する一般論を、モチーフ的Hall代数の文脈で再証明した。 最後に、曲線の数え上げ問題に関しても研究を始めたことに触れたい。プレプリントIntegrality of the simple Hurwitz numbers(arXiv:1412.5242)では単純Hurwitz数の整数性を初等的に証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
K理論的AGT予想が本研究の主目的であるが、今年度の成果により証明の準備が整った。特にHall代数としてのDing-Iohara-Miki代数の実現について、不明だった点を明確化することができた。またモチーフ的Hall代数について一定の理解を得たことも成果である。現在A型の場合にK理論的AGT予想の証明を進めている。 またHall代数の自己同型の幾何学的構成にあたって、相対的Fourier向井変換を用いることにしたが、ここでは以前のFourier変換やBridgeland安定性に関する研究が役にたった。「モジュライ空間と量子代数」という本研究の題目そのものを研究できたことを嬉しく思う。 最後に、曲線の数え上げ問題について研究を始められたことは、当初想定していなかったことだが、幸運であった。数え上げ問題の多くは代数曲線のモジュライ空間上の積分で表されるため、有理数として定義されるのが普通であるが、実際に計算してみると意外に多くのものが整数性をもつことが分かった。次年度はこの整数性を量子代数の表現論と関連させて調べる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はK理論的AGT予想の証明を完成させる予定である。量子トロイダル代数ないしHall代数に関する準備は既に終わったので、あとはそれらと変形W代数との関係を明確化させたい。 また可能であればMaulik-Okounkov及びBraverman-Finkelberg-Nakajimaによるコホモロジー的AGT予想の証明で用いられたstable envelopeの理論のK理論版についても研究したい。 また時間があればスーパーW代数のWhittakerベクトルについても、幾何学的構成もしくは自由場表示と直交多項式との関係について研究したい。
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