可換環論を中心として、代数的手法を用いてホモロジカル予想、特異点、岩澤理論に関連する研究を行った。所望の結果を得るには必ずしも至らなかったが、数年の年月を掛けて幾つかの基礎的で重要な成果を挙げることが出来た。 最初にホモロジカル予想に関連する研究成果から述べたい。このテーマは自分を含む多くの研究者が長年取り組んできたものであるが、現段階においても未解決である。特別な分岐条件を持つ体を含まない数論的な環上で考察を行い、その場合には肯定的な結果を得るに至った。その証明の核心はDavisとKedlayaによる、Witt環上のフロベニウス射を用いてFaltingsによる概純性定理の別の定式化を用いるものである。元のFaltingsの定式化と比べても見通しの良い証明となっている。Bhattによっても独立にホモロジカル予想の部分的な結果が得られたことを付記しておきたい。 岩澤理論への応用に関してであるが、落合理氏と共に取り組んできた局所環上のBertini型定理の基礎部分がすべて完成し、論文を名古屋ジャーナルから出版することが出来た。一般のGalois変形環上の岩澤理論を議論するために必要な代数的な道具が揃った。現在はその続きである楕円モジュラー形式の肥田変形の岩澤主予想を考察中であるが、数論側で文献が不足していることもあり、必要な結果の証明も含めて論文を作成段階中である。 上記以外の副産物として、Cohen-Gabberの定理のより初等的な証明が蔵野和彦氏との共同研究で得られた。これはWitt環を用いたある種の巨大な環の構成で使われる。 P.H.Quy氏との研究において非コーエン・マコーレー環のクラスにおいて正標数の特異点解析を行った。この研究は発展性があるもので現在継続中である。
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