研究概要 |
本年は有限グラフのバナッハ空間をターゲットとするスペクトルギャップについて研究を進めた.このスペクトルギャップはバナッハ空間 X と指数 p(1 以上の実数)の組ごとに有限グラフから 0 以上の実数への写像を与える.固定された組 (X,p) に対して,有限グラフの無限列が (X,p)-エクスパンダー族(または (X,p)-アンダー族)とは,有限グラフの最大次数は一様有界であり,有限グラフの直径は無限大に発散し,しかも (X,p)-スペクトルギャップが一様に下から正の実数でおさえられていることをいう.標準的なエクスパンダー族は (X,p)=(R,2) のときである.一般的にスペクトルギャップの指数 p を変えたときの振る舞いの変化を理解するのは難しいが,Matousek はバナッハ空間 X が R のとき,p を変えても (R,p)-アンダー性はどれも同値であることを示した(Matousek の補外法).本研究では,この補外法を大幅に拡張し,「X が一様凸バナッハ空間と球面同値なバナッハ空間のとき,p が真に 1 より大きい実数のとき (X,p)-アンダー性は p の値に依らずどれも同値である」ことを示した.さらに,多分割等周定数を用いて定義される「n 分割エクスパンダー族」(一般の有限グラフの族では,n が上がるほど条件が弱くなる)に対し,「有限連結な頂点推移的グラフの列では,n 分割エクスパンダー族とクラスと通常の(2 分割)エクスパンダー族のクラスが同値である」ことを示した.これは,同じ結論を有限ケーリーグラフの時に予想した藤原耕二氏(京都大学)の問題の,より一般的な状況での肯定的解決を与えるものである. 酒匂宏樹氏(東海大学)との共同研究で,有限ケーリーグラフの無限列の coarse 幾何と Cayley 位相空間での marked 群の集積点を結びつけた.
|