研究概要 |
本研究の目的は, 代数幾何の設定で自然に現れる概念(コホモロジー, 豊富性など)を, 複素幾何の立場(曲率, 正値性など)から扱う枠組みの構築であった. 今年度は, 計画通り, 直線束の冪に関するコホモロジー群の漸近的な挙動を研究した. 数値的に半正(numerically effective)な直線束に対する漸近的な消滅定理を, 特異計量と乗数イデアル層を用いて, 擬正(pseudo-effective)な直線束に一般化した. その応用として, 随伴束に対するNadel型(Kawamata-Viehweg型)の消滅定理を得た. 特に, 最小特異性を持つ計量に対してNadel型の定理を得ることができた. この成果を公開した後に, 多重劣調和関数の乗数イデアル層についての予想が解かれ, この結果は他数学者の結果から従ってしまった. しかし, 証明の手法は全く異なり他の応用もある点から価値があると思われる. 証明のアイデアは, 単射性定理を用いて曲率が半正な直線束を扱う点と, Nadel型の消滅定理を漸近的な消滅定理に帰着する点である. そこで, 従来の単射性定理を特異計量と乗数イデアル層を用いて一般化した. その際には, 調和積分論を用いてコホモロジー類を調和形式で代表する技術が重要となる.
|