研究実績の概要 |
本研究の目的は, 代数幾何の設定で自然に現れる概念(コホモロジー, 豊富性など)を, 複素幾何の立場(曲率, 正値性など)から扱う枠組みの構築であった. 前年度はコンパクトケーラー多様体上の擬正(pseudo-effective)な直線束とその曲率が半正な特異計量を考え, 乗数イデアル層付きの随伴束やそのコホモロジーを研究した. 2015年度は, 複素多様体から解析空間への固有な正則写像による高次順像について研究した. 直線束としては複素多様体上の半正な曲率を持つ直線束や底空間の方向に正な曲率を持つ直線束を考察した. これは前年度の研究の相対化を目指した試みのひとつである. 結果として, 多様体のケーラー性と弱擬凸性および直線束の曲率の適切な正値性の仮定の下で, 高次コホモロジーに対する消滅定理を得た. この結果は最近与えられたFujinoの予想への解答であり, Ohsawaの結果の高次順像への一般化および Kollarの結果の複素幾何的な状況への一般化と見なせる. その証明の過程で, Takegoshiの正則凸多様体上の調和積分を応用することで, 随伴束のコホモロジーのある種の分解定理を得た. また高次順像の高次コホモロジーの単射性定理も得ることでできた. 代数幾何的な状況ではより強い導来圏内での分解定理が知られていたが, これはFujisawaによって複素幾何的な状況へ一般化された.
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