研究実績の概要 |
本研究の目的は, 代数幾何の設定で自然に現れる概念(コホモロジー, 豊富性など)を, 複素幾何の立場(曲率, 正値性など)から扱う枠組みの構築であった. 前々年度は, 特異エルミート幾何の立場からコホモロジー消滅定理の一般化である単射性定理を研究し, 曲率が半正値な特異計量を許す直線束に一般化した. 前年度は, 複素解析的な視点から複素多様体上の解析空間への固有な正則写像と随伴束の高次順像を研究し, Lerayのスペクトル系列の退化やKollar, Ohsawaの消滅定理を一般化した. 2016年度は, これまでの研究を踏まえ, 特異計量の乗数イデアル層付きの随伴束の高次順像を研究した. 結果として, 単射性定理をこの高次順像に対しても一般化することができた. この結果はKollar, Takegoshiの結果の特異計量版であり, 前々年度の成果のコンパクトケーラー多様体から正則凸多様体への一般化とも見なせる. 応用として, 複素構造の変形に関する擬正(pseudo-effective)な直線束の数値的小平次元の変動を調べることで, Nadel-Kawamata-Viehweg型の消滅定理の相対化も与えた. また, Fujinoとの共同研究により, 非代数的な特異性を持つ(準)多重劣調和関数とその部分多様体への制限について研究し, 基底点自由な線形系と乗数イデアル層に対するBertini型の定理を証明した. この定理はいくつかの論文では証明なしに使われていたが, この研究で厳密な証明を与えることが出来た. この定理によって, 乗数イデアル層を多様体の次元に関する帰納法で調べることが可能になる. 応用としてFujinoと共同で, Kollarの捻れ不在定理, 一様大域生成定理, GV層性, Generic vanishingなどの定理を擬正な直線束に一般化した.
|