研究課題/領域番号 |
25800054
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
楠岡 誠一郎 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20646814)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 確率微分方程式 / 放物型偏微分方程式 / カップリングの手法 / ランダム環境 / マリアヴァン解析 / シュタインの手法 |
研究実績の概要 |
本年度は主たる研究として、滑らかさの悪い係数を持つ非拡散線型放物型偏微分方程式の解の空間変数に関する連続性の度合いについての研究を行った。これは昨年度の研究内容をさらに追及し、より深い成果を求めたものである。昨年度との研究方針の違いは、基本解を直接考えるのではなく、解について先に考えたところである。これによりピン止め拡散過程を扱う必要が無くなり、基本解に対する評価を行う必要が無くなった。そのため、昨年度行った議論を著しく簡素化することができ、また多くの仮定を外すことができた。具体的には、2階微分の項の係数行列が空間に関して連続であり、その連続性の度合いが時間パラメータに関して一様であること、さらに2階微分の項の係数行列が一様正定値行列となること、1階微分の係数及び0階微分(掛け算項)の係数が有界可測であることを仮定した下で、解のヘルダー連続性に関する結果を得た。これに加えて方程式が有界な基本解をもつことを仮定すると、基本解が初期値に関する空間変数に関して任意の指数に関するヘルダー連続性を持つことが得られる。この結果は昨年度の結果を大きく改良したものとなっている。また、2階微分の項の係数行列が空間変数に関してディニ連続であり、その連続性の度合いが時間パラメータに関して一様である場合についても考察を行った。この場合に方程式が有界な基本解をもつことを追加で仮定すると、基本解が初期値に関する空間変数に対してリプシッツ連続となることが得られた。証明の手法は昨年度の研究と同様に主にカップリングの手法を用いている。この研究成果は既に論文としてまとめ、現在投稿中である。 本年度はその他にも、過去に依存する確率微分方程式の解の近似に関する研究、ランダム環境中の拡散過程の研究、ウィーナーカオスの収束に関する研究を行った。これらの研究についても成果をそれぞれ論文としてまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の主たる研究である、滑らかさの悪い係数を持つ非拡散線型放物型偏微分方程式の解の空間変数に関する連続性の度合いについての研究は、昨年度から方針を転換して基本解を直接考えるのではなく解を先に考えることが目覚ましい効果を発揮した。そのため、ピン止め拡散過程などを考える必要が無くなり、議論を著しく簡素化することができ、さらに当初想定していたような仮定を外すこともできた。この方針転換がもたらした恩恵により、予想だにしていなかった成果をあげることができた。また、2階微分の係数行列がディニ連続である場合というのは本来計画には無かった課題であり、この場合に解のリプシッツ連続性に関する結果が得られたことも、当初は予想し得なかった成果である。滑らかさの悪い係数を持つ非拡散線型放物型偏微分方程式に対して確率論的手法が非常に有効に働くことを確認できたことは一連の研究を後押しするものとなると考えられ、今後のさらなる発展に明るい兆しをもたらすものとなった。 その他の過去に依存する確率微分方程式の解の近似に関する研究、ランダム環境中の拡散過程の研究、ウィーナーカオスの収束に関する研究においては予定通りの成果をあげることができた。これらの順調な研究の進展により、本年度は沢山の成果を論文としてまとめることができた。 これらの研究結果がすべて計画通り、または計画を上回るものであるため、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、少し違う型をした滑らかさの悪い係数を持つ放物型偏微分方程式について解の空間変数に関する連続性について研究を行いたいと考えている。この研究では既に標準的な線型放物型偏微分方程式に対して十分に良い成果が挙げられており、さらにその議論の過程が明瞭であることから、少し違う型をしたものに対しても同様の議論が通用するのか、また少し違う型を考えると異なる結果が導かれるのかどうかに対して質の高い考察ができると考えている。 また、ウィーナーカオスに関する研究をさらに進めたいと考えている。今年度は4次モーメントの定理の拡張に関する研究を行い、シュタインの手法を用いて得られる確率分布の間の距離の評価に現れる量と確率分布の収束の関係をより深く理解することができたのであるが、シュタインの手法で現れる量はさらに多くの情報を含んでいると予想している。今後はこの量が持っている情報とは何であるかを追求したいと考えている。 さらに、ラフパス理論と従来の確率微分方程式の理論の関係についても研究を行いたいと考えている。特に、ラフパス理論の考え方を元に構築された正則構造の理論は現在とても注目されており、この正則構造の理論によりこれまで未解決であった非線型確率偏微分方程式の局所解の存在と一意性の問題が解かれた。現在、ラフパス理論は従来の確率微分方程式の理論に新しい視点を与えるものであると考えており、今後の研究課題として2つの理論の関係についての研究も行いたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は海外出張が多いことが以前から分かっていため、平成25度からある程度持ち越していた助成金があった。しかし、一部の出張先からの滞在費の援助をしてもらえたため、想定していたよりも使用額が少なくなり、少々未使用の助成金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に中国で開かれる国際研究集会「International Conference on Stochastic Analysis and Related Topics」での講演依頼が来ているため、その海外出張の費用に助成金を充てる予定である。これ以外にも、研究打ち合わせを行うため、研究費を使用して海外出張をしたいと考えている。 また、例年開かれている国内の研究集会にも参加し研究成果の発表を行う予定であり、それらの研究集会に参加するための出張経費として研究費を使用する予定である。さらに、研究発表用のノート型パソコンを研究費を使用して購入する予定である。必要に応じて書籍も研究費を使用して購入する予定である。
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