今年度は、理想気体における古典力学系モデルの極限過程として結晶確率モデルを説明するという研究課題において、二つの重粒子の挙動に相対効果がない、かつ二つの重粒子が同じタイプである、即ち、重粒子達と軽粒子達との間の相互作用を与えるポテンシャル関数は同じ形をしている、という場合を研究するために、対応している確率微分方程式を研究した。具体的には、粒子モデルでは軽粒子の質量が0に収束する時、重粒子達の挙動の極限を求めるのが目的であるので、対応している確率微分方程式モデルでは、ポテンシャル項の係数が無限大に発散し、それ以外の項は変わらない、というときの挙動を調べることになる。また、二つの重粒子が同じタイプであることに対応して、ポテンシャル関数は台の境界付近では負である、即ち粒子がポテンシャルの有効領域内で境界付近にある間、ポテンシャル項は吸引力を与えるモデルを考える。特に今回は、ポテンシャル関数は井戸型であると仮定する。さらに、粒子モデルから示唆されるように、速度に比例する摩擦力が存在すると仮定する。 今年度は前述の確率微分方程式モデルに対し、1次元の場合を研究した。まずノンランダムな微分方程式を考え、重粒子の取りうる範囲を与える新しい過程を導入し、一往復に費やされる時間及びそれにおけるエネルギーの減衰との間のバランスを詳しく評価することにより、ノンランダムな場合における解によって定められる経験分布過程の極限を求めた。その後、マルチンゲールの表現定理及びブラウン運動の色々な性質を使い、ランダムな場合をノンランダムな場合に帰着し、問題にしている解によって定められる経験分布過程の収束を証明した。特に、非常に強いポテンシャル項の影響で、極限過程はノンランダムである。
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