研究課題/領域番号 |
25800057
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
緒方 芳子 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (80507955)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子シャノンマクミランの定理 / 量子スピン系 |
研究概要 |
量子スピン系の自然な一般化であるAFC*系と呼ばれる系について、シャノンマクミランの定理を拡張した。シャノンマクミランの定理とは、エルゴード的な状態が、漸近的には一様分布のように見えるというものである。そして、その一様な重みは、エントロピーによって与えられる。これは古典系では古くから知られている結果であるが、量子系では、その非可換性により解析が複雑なものとなり、研究が始まったのは比較的最近である。 量子スピン系における状態の重要なクラスとして基底状態がある.大規模量子系やそのゆらぎを考えるうえでこの分類は重要である。特に、量子スピン系で、エネルギーギャップがあるような、並進不変ハミルトニアンを考える。問題は、二つのこのようなハミルトニアンが与えられたときに、これらは、「スペクトルギャップは開いている」連続なハミルトニアンの経路によって、互いに移りあうことができるかどうかである。一般にこれを行うことは大変に難しい問題であるので、手始めに特殊なハミルトニアンについて解析を行うのがよい。本研究では、これを、一次元系におけるfinitely correlated state と呼ばれる状態からある種のレシピを追うことによって決まるハミルトニアンについて行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに量子スピン系については、シャノンマクミランの定理は、古典スピン系のシャノンマクミランの定理を経由する証明が知られていた。本研究では、新しい、古典系を経由する必要のない、シンプルな証明を与えると同時にAFC*系への拡張を行った。カギとなる考察は、巨視的物理量に付随したスペクトル射影演算子のランクの評価である。これはある種の大偏差原理とみることができるもので、(熱力学的性質である、)変分原理によって示すことができる。したがって、本結果は、「量子シャノンマクミランの定理の熱力学的な考察による証明」ということができ、それ自体面白いものである。この結果を論文にまとめた。 一次元系のある種のハミルトニアンの基底状態の分類に成功した。量子スピン鎖上のハミルトニアンについて、右無限鎖と左無限鎖それぞれにおける基底状態が考えられる。結果は、あるクラスのハミルトニアンは、この右、左の基底状態の数を不変量として、完全に分類することができる、というものである。関連した結果として、これまでに、左右の基底状態の数が同数であるような「周期的な」ハミルトニアンの分類は行われていた。また、左右の基底状態の数が異なる、特別な例についても解析が行われていた。本研究はこれらの結果を大幅に一般化するものとして意義がある。
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今後の研究の推進方策 |
CCR 代数とは、物理的にはボソンを表すC*環である。Goderis-Verbeure-Vetsの中心極限定理とは、巨視的物理量のゆらぎがボソンのように見えるということである。この定理は、特性関数の収束先がCCR であらわされるという意味で揺らぎがボソン的であるということを言っている。しかし、量子スピン系の中で、揺らぎを近似するようなボソンが存在するとは言っていない。物理的にはそういったボソンが量子スピン系の中に見つかると思いたい。数学的にいうと、今の状況は、ほぼCCR の関係を満たすものが、ぴったりCCR の関係を満たすもので近似できるか、という問題になる。これまでに、このような近似が可能であることはわかった。しかし、できればさらに、それが自由ボソンであることを言いたい。今後はこれを解決する。 基底状態の分類の結果を高次元量子スピン系の基底状態の分類に拡張する。また、上で書いた一次元の状態のファミリーの特徴づけを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
量子スピン系における巨視的物理量の揺らぎおよび基底状態について研究する上でカリフォルニア大学Davis 校Nachtergaele 氏と議論を重ねることは非常に有意義かつ必要なことであるが、同氏は当該年度Davis校において重要な職にあり、研究代表者との議論に十分に時間をとることができなかった。 4月にカリフォルニア大学バークレー校において開催された量子情報理論の研究会に参加することにより、研究代表者は量子スピン系の基底状態についての多くの研究結果を知ることができたのみならず、上記Nachtergaeleと一定の時間議論を行うことができた。また、9月にNachtergaele氏と議論の機会を持つ予定である。
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