研究実績の概要 |
量子スピン系の基底状態の研究を行った.量子力学において時間発展を与える演算子はハミルトニアンと呼ばれる。これは巨視的物理量である.量子スピン系においては,これは自己共役な行列の列により表される.この行列の最低固有値と,のこりのスペクトルの間に(系のサイズについて)一様なギャップが開いているか否かは基底状態の性質をきめる重要な問題である.ギャップのある系はある意味正常な系であり,その相関関数は距離について指数関数的に減衰する.近年このギャップをもった系の分類が注目をあつめている.つまり,二つのハミルトニアンはギャップをもつハミルトニアンの連続な路でつなげるとき,同値なものとみるのである.一般にスペクトルギャップを示すのは非常に難しい問題であり,完全に一般な量子スピン系についてこの問題を考えることは現在の技術では不可能である.しかし一次元系についてはfinitely correlated stateと呼ばれる状態を基底状態としてもつサブクラスは,ある良い条件のもとスペクトルギャップを持つということが知られている.これを含むハミルトニアンのクラスで, スペクトルギャップを含むものを導入し,このクラスの物理的な5つの条件(スペクトルギャップの存在,端の影響の指数関数的減衰など)による特徴づけを行った.これにより,一次元の基底状態の様子がある程度一般の状況で理解できるようになった.さらに,このクラスのハミルトニアンの,上の意味での分類を行った.より厳密には,端の効果を考慮した分類と,熱力学極限での分類をそれぞれ行った.前者では端状態の縮重度が完全不変量であり,後者では相はただ一つとなった.
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