研究課題/領域番号 |
25800063
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木田 良才 東京大学, 数理(科)学研究科(研究院), 准教授 (90451517)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 離散群 / 変換亜群 |
研究実績の概要 |
今年度はバウムスラッグ・ソリター群(=BS群)の確率測度空間への作用からできる変換亜群を題材とした研究を行った。この群は組み合わせ群論における興味深い研究題材の一つであって、二つの生成元とある一つの関係式を表示にもつ群として定義される。ここで、pとqは非零整数である。BS群の測度同値による分類を目標にしている。過去の研究で、III型作用の類似で、BS群の作用に付随する流れを構成した。この流れにより多くの作用を見分けることができたが、この流れに影響を及ぼさない部分であるBS群の交換子群についてはこれまで何も情報が得られていなかった。
今年度の研究で、パラメータp、qによらず、この交換子群は整数群と無限階数自由群の直積に測度同値であることを示した。この群は無限個の整数群の融合積という形をしており、全く違う形の群との測度同値性を証明することができた。この事実は、考えている分類問題がいかにデリケートであるかを指し示しており、問題の難しさや深さを浮き彫りにするものである。
他の成果として、BS群の第二導来群は自由群になることがツリーへの作用を見ることによりわかるが、その生成元集合を書き下すことができた。その方法はBS群のある作用からできる変換亜群を用いたものであり、自由群の部分群の生成元を求めるシュライアーの方法に基づいている。目的に合わせた生成元集合を得られる方法であるという点が優れている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたとおり、BS群の測度同値による分類を目指している。これはBS群の確率測度空間への作用からできる変換亜群がいつ同型になるかを調べることに当たる。これまでの成果により、異なるパラメータp、qをもつBS群同士でも同型になる変換亜群を持ち得ることが期待される。それを示すには、BS群の第二導来群の生成元集合でいい性質をもつものを見つけることが必要であると考えている。今年度の研究でとりあえず生成元集合を一つ得ることができたことは、分類問題への解決に向けた大きな一歩であると言える。ただ、解決に向けてはさらに繊細な生成元集合の間の対応を見つける必要があり、困難な課題が残されている。一方、今年度得られた交換子群の測度同値類がp、qによらないという事実は、目指す目標をサポートする結果であり、変換亜群の間の同型を構成する上で大きなヒントになる。以上により、未だ解決にはほど遠いが、やるべき課題は見出されており、研究の進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
もう一つの課題である、安定作用の研究を進める。過去の研究で中心拡大の群が安定であるための必要条件と十分条件を得たが、その完全な特徴付けを得たい。そのために解決すべき問題は、商群の安定性から拡大群の安定性が導けるかどうかである。また、安定群は一般に内部従順になることが知られているが、内部従順群の構造は未解明な部分が多く、安定群の特徴付けは難問である。今後目標とする中心拡大に対する安定性の特徴付けは、この難問解決への手がかりになると思われる。他の課題として、内部従順性は様々な群の操作の下で閉じていることが示されるが、安定性がそのような操作の下でも閉じているかどうかを調べることは価値がある。安定作用の構成法は限られており、多くの困難が予想されるが、このような具体的な課題の解決を通して構成法の確立を目指していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大学での業務により当初計画していた出張を取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
9月と3月に開催が予定されている日本数学会への出張等を通して研究成果の発表および情報収集を行う。
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