研究概要 |
層ポテンシャルの再構成問題に対して, 研究計画で述べたように, 対応する幾何学的発展方程式を導出し, その一意可解性を証明した. 導出した発展方程式は層ポテンシャルの再構成問題の連続的に変化する解(曲面)の族の挙動を記述するものであり, 発展方程式の一意可解性から層ポテンシャルの再構成問題における一意性崩壊(分岐)に対する必要条件を得ることができた. すなわち, 平均曲率が正という幾何学的条件下では, 解は分岐しないということを証明した. なお, 実際には, この幾何学的発展方程式やHele-Shaw流を特別な場合として含む一般化された発展方程式を導出, 解析した. 本研究結果は, 層ポテンシャルの再構成問題に対し, その解の族を考察することによって元の問題の解の定性的性質を明らかにするという画期的な発想を元にしたものであり, 近年発展した数学理論のひとつである最大正則性を用いた非線型発展方程式の解析を行ったという技術的側面からも価値があるものと期待される. また, 幾何学的発展方程式の球対称解における線形化作用素のスペクトルを完全に求めることで, 対称解まわりでの力学的構造を明らかにすることにも成功することができた. これは幾何学的方程式が無限個の保存量を有していることに着目し, その保存量によって線形化作用素の各固有値に対応する不変多様体を特徴付けすることによって達成された. 特に, この成果により, 調和函数の平均値の性質の安定性に関する定量的な結果を得ることができるものと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
幾何学的発展方程式の球対称解の力学的構造の研究を応用し, 調和函数の平均値の性質の安定性に対する定量的結果を得るため, 発展方程式の時間大域的可解性およびパラメーターに関する解の連続依存性に対する定量的評価が必要となる. 前者については, 既に線型化作用素のスペクトルの分布を求めることに成功しており, 発展方程式に対する抽象理論を援用することにより証明される. 後者については, 発展方程式自体がパラメーターの変化に対して正則かどうかを確かめることによってなされるが, 考えるパラメーターの空間が測度の集合からなるため, それらを適当なBanach空間へと射影することにより, 既知の抽象理論の応用として求めることができると考えている. 一方, 二次元の問題の場合には, Hele-Shaw流がそうであったように等角写像を用いて幾何学的発展方程式の具体解を構成することができるのではと期待しているが, Hele-Shaw流の場合とは異なり方程式に曲率の項が現れるため, 等角写像の方程式として問題を再定式化するのには困難が生じる. 特に, 曲率を係数函数としてもつ第三種境界値問題のGreen函数が等角写像によってどのように変化するかを考察し, その変化が単純となるような等角写像のクラスを求めることで困難を回避できるのではないかと期待している.
|