1. 多次元正方格子上の離散ラプラス作用素に対するレゾルベントの漸近展開 多次元正方格子上の離散ラプラス作用素のレゾルベントに対し,それぞれの閾値まわりでの漸近展開を計算し,特にその分枝部分のLauricella超幾何関数による具体的表示を得た.1次元の場合を除いて,多次元正方格子上の離散シュレーディンガー作用素に対する閾値共鳴の完全分類は未解決であり,その分類のためには,まず非摂動系である離散ラプラス作用素のレゾルベントを閾値まわりで漸近展開する必要がある.上述の展開はそのための重要な一ステップである.この問題は超双曲型作用素のレゾルベントの閾値まわりでの展開に類似しているが,離散ラプラス作用素に対してはレゾルベント核の特殊関数による表示が知られていないため,同じ方法で解くことは今のところできない.ここでの証明は変数変換や関数論などの基本的な道具のみを用いて行われる. 2. 離散半直線上のシュレーディンガー作用素に対する閾値共鳴の完全分類 離散半直線上のシュレーディンガー作用素に対し,そのレゾルベントの閾値まわりでの漸近展開を計算し,展開係数と一般化固有関数の遠方での増大度との間に完全な対応関係があることを示した.特にこれにより,一般化固有関数の遠方での増大度のみを用いて閾値共鳴状態を定式化することに成功した.この理論では非局所的ポテンシャルおよび一般的な境界条件を扱うことができる.閾値共鳴状態のこのような定式化および分類は,2015年に研究代表者自身によって離散直線上で初めて完全な形で得られたものであり,ごく最近まで知られていなかった.証明はJensen-Nenciuによる展開スキームを最も一般の場合に実行することによって得られる.この計算を実行するには多く場合分けが必要となるが,擬逆元の概念を導入することで場合分けをある程度減らすことができる.
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