研究課題/領域番号 |
25800074
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
佐々木 浩宣 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00568496)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 非線型分散型方程式 / ディラック方程式 / 解の漸近挙動 / 散乱問題 / 調和解析 / 重み付きソボレフ空間 / 散乱作用素 / 波動作用素 |
研究概要 |
平成25年度は空間3次元の非線型ディラック方程式における時間大域解の漸近挙動を中心に研究した。具体的に非線型項は、Solerが提唱した「4次の相互作用」に関連するもので、数学的には3次のオーダーを持つ。 (背景)この方程式に関してはソボレフ空間Hs(s>1)に属する初期データに対して時間局所解が存在することがEscobedoとVegaにより証明され、更に「Hsの意味で十分小さい初期値u0」に対する時間大域解u(t)の存在が町原・中西・小澤によって示されている。またこのとき時間大域解u(t)は、或る自由解(非線型項を持たないディラック方程式の解のこと)へ時刻無限大で漸近する。その自由解の初期値をu+とおくとき、u0からu+へ写す写像を「逆波動作用素」と呼ぶ。逆波動作用素はHsの原点近傍で定義され、Hsを値域とする写像であるが、これを詳細に分析するのが今回のテーマである。ここでk>sとする。このとき初期値(u0)がHkに属し十分小さければ、それを逆波動作用素で写したもの(u+)も再びHkに属する。非線型項が滑らかである故、kは任意に与えることができる。即ち、滑らかで小さい初期データは、再び滑らかなデータとして写ることが分かる。滑らかさと同様に、「十分速く減衰するような初期データは、再び十分速く減衰するデータに写る」(性質Dと呼ぶことにする)ことが想像できる。性質Dは逆波動作用素の分析の上で重要な課題であるが、今まで厳密に証明されたことはない。 (主結果)今回、性質Dが実際に成り立つことを厳密に証明した。具体的には、一定の条件を満たす任意の重み付ソボレフ空間Hswについて、「Hswの意味で小さいデータは、Hswのデータに写される」を示した。証明の際にキーとなるのは、「ディラック方程式と相性の良い微分作用素」の応用である。なおこの結果は学術論文として纏められ、近日国際学術雑誌に投稿する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度としては、おおむね順調に達成していると考える。 当初の計画においては、「非線型摂動の度合いを指し示す散乱作用素の詳細な解析」というテーマの具体的課題のひとつとして「様々な関数空間(の原点近傍)の散乱作用素による像が、再び同じ関数空間に収まるか?」を解決するという目標を設定した。上部の「研究業績の概要」において記載した主結果は、散乱作用素にも適用できる結果である為、上記の目標は或る程度達成されたことになる。
|
今後の研究の推進方策 |
現段階で得られている主結果およびそれを得るに至る手法を応用・修正することで、更に深い諸性質を明らかにしていく。 「研究業績の概要」において記載した主結果では、典型的かつ普遍的な関数空間である「重み付ソボレフ空間Hsw」を用いた。今後は、ディラック方程式に特化されているような(Hsw以外の)関数空間、および非線型の構造に依存すするような関数空間について検討したい。また今回得られた結果は、その他の関連する非線型偏微分方程式(例えば、非線型クライン・ゴルドン方程式、クライン・ゴルドン方程式とディラック方程式との非線型システムなど)に応用できることが期待される。但し、細かいところで求められる技法が異なることが予想されるので、適時対処していく。 様々な関数空間に適用することを計画する関係上、調和解析学(フーリエ解析、バナッハ空間の実補間理論及び複素補間理論、自己共役作用素のスペクトル理論など)の深い洞察が必須となるので、周辺分野の研究も適時行う。また、考察を補助的に支えるシミュレーションに関しても積極的に行う。横断的な研究活動となることが予想されるので、それぞれのエキスパートである専門家とのディスカッションを精力的に行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成26年度の助成予定金額(直接経費)は700,000円であり、平成25年度と比べると、200,000円低い。従って、昨年度と等質な研究を遂行するためには、支出をある程度抑え、今年度に充てるべきと考えた。 当初構想した研究計画とほぼ同様に遂行する。本研究ではさまざまな分野(例えば変微分方程式論、関数解析学、リーマン幾何学、数理物理学)の技術・知識を必要とするため、それに関連する書籍を年間10冊程度(15万円程度)購入する。 本研究における論文作成、成果発表資料作成、シミュレーション作成、研究者間の通信のため、パソコン周辺機器の充実化が必須である。今年度は15万円程度の購入を計画jしている。 本研究の打ち合わせ並びに研究成果発表のために、出張を行う。国内出張先として、広島大学(日本数学会)、京都大学、信州大学などが挙げられる。また、タイミングが合えば海外出張も行う。予算は45万円程度である。
|