平成28年度は「空間2次元以上の非線型シュレーディンガー方程式の初期値問題及び散乱問題における時間大域解の存在定理及び漸近挙動」に関連するものを中心に研究した。ここで、非線型項はハートリー型と呼ばれる非局所的相互作用に関連するものであり、数学的には未知関数と相互作用ポテンシャルV(x)によって構成されている。更に今回は、V(x)が斉次で「質量劣臨界条件」を満たすものとする。このとき、「スケール不変な斉次ソボレフ空間の意味で小さい初期値」に対する時間大域解の存在が知られている。 摂動項のないシュレーディンガー方程式の場合、「初期値が指数関数的に減衰するとき、対応する解は(初期時刻を除いて)空間変数について解析的になること」(解析的平滑化効果という)が直ちに示される。今回の方程式でも解析的平滑化効果が起こることを証明した。 (主結果)初期値はスケール不変な斉次ソボレフ空間の意味で小さいものとする。(1)このとき解析的平滑化効果が起きる。更に収束半径に関連する評価式が成立する。(2)終値データも指数関数的に減衰する。(3)「初期データの減衰の速さ」と「対応する時間大域解の滑らかさの指標」が合致する初期データの例を具体的に挙げられる。(4)V(x)に或る強い条件を課すことで、時間大域解の収束半径が無限大になるような初期値の十分条件が得られる。 以上の結果を学術論文として纏め、国際学術雑誌に投稿した。また今回の問題に関連する内容を盛り込んだ国際会議報告が近日出版される予定である。
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