本研究では、気体力学や弾性体力学に起因する微分方程式に関する数学解析を主な目的としており、特に対称双曲型方程式系や双曲ー放物型方程式系、またはその具体的な物理モデルとなるEuler-Maxwell方程式系やPlate方程式などを取り上げ、方程式の持つ消散構造から引き出される安定性現象に着目し、研究を行なっている。特に、より物理背景に着目し、各項が複雑に影響を及ぼしあうような方程式系を考察する際に現れる「可微分性の損失」とよばれる現象について深く解析を行っており、平衡点周りの線形安定性解析に関して研究を進めている。 本年度は、これまでに研究を進めてきた様々な物理モデルの安定性解析を機に統一的な結論を導くことに成功し、「安定性条件」とよばれる、方程式系に課される時間大域解が減衰するための条件の導出を行った。この安定性条件の導出は本研究課題の最大の目標であり、この条件を用いることで、様々な物理モデルが体型的枠組の下で解析可能であることを示している。しかし、安定性条件は導かれたものの、その詳細な性質に関しては未だ未解明であり、安定性条件の特徴付けが今後の研究課題である。 また、今回得られた安定性条件の応用として、弾性体モデルのBresse方程式系に関する考察も進めており、これによりこれまでに知られていない新たな消散構造の発見にも繋がった。このことより、本研究課題は安定性条件の導出という形で一旦区切りはついたものの、新たな研究課題を提示している。 上記の研究成果を踏まえて、学会等での研究発表も積極的に行っている。本年度は海外発表8回、招待講演11回を含む研究発表を行っている。また、研究集会の場では様々な意見交換・討論がなされ、今後の進展の大きな指針を得ることができた。
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