研究課題/領域番号 |
25800084
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
水野 将司 日本大学, 理工学部, 助教 (80609545)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 平均曲率流方程式 / 幾何学的測度論 / 特異極限問題 / 境界挙動 |
研究概要 |
境界条件付き平均曲率流の弱解の定式化と, その解の存在について考察した. 特に, 境界のない平均曲率流の測度論的な弱解(ヴァリフォールド解)にどのような境界条件を加えればよいかを問題とした. 幾何学的測度論における境界は, 全変動測度のRadon-Nikodym微分で特徴付けすることができるが, その特徴付けは特異測度を用いたものである. 特異測度の解析が困難であることもあり, ヴァリフォールド解の境界をどのように特徴付けすればよいかは明らかではなかった. 研究協力者である利根川吉廣教授との共同研究により, Allen-Cahn方程式の初期値境界値問題からの特異極限を考えることにより, 直交境界条件を持つ平均曲率流のヴァリフォールド解の定式化と存在を証明した. 私は主に, 解の存在で重要となるディスクレパンシー測度の消滅と得られたエネルギー測度の第一変分の評価を行った. また, 研究協力者である高棹圭介氏と共同で, 平均曲率流のグラフ解の境界勾配評価を考察した. 高棹氏により, 平均曲率流のグラフ解の内部勾配評価と, 周期境界条件におけるグラフ解の存在が示されている. 周期境界条件付き平均曲率流は, トーラス上の平均曲率流と同等なため, 実質的には境界条件のない平均曲率流を考察していることになる. 利根川教授との共同研究により得られた, 境界の取り扱いに関する知見が直交境界条件付き平均曲率流のグラフ解の境界勾配評価の導出に有効であることがわかった. 現在, 高棹氏と直交境界条件と背景流の付いた平均曲率流のグラフ解の境界勾配評価と解の存在に関する論文を準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の目標は, 1年目で直交境界条件と背景流の付いた平均曲率流の弱解の存在証明であった. 背景流付き平均曲率流の弱解の存在証明は, 2013年度では達成できなかったが, その証明の基盤といえる, 背景流のない平均曲率流の弱解の定式化と存在証明が得られたため, 2013年度中に達成できると思われる. なぜ, 背景流付き平均曲率流の弱解の存在証明まで達成できなかったかについて, 背景流のない平均曲率流の境界挙動が, 申請時に予想していた以上に多くの興味ある問題を持っていたことを強調しておきたい. 測度論的境界を定義するためには, 境界まで込めた第一変分の有界性を示す必要があるが, このことが非自明であったことに加え, 境界の解析のために発散定理など, 微分積分の基本定理を測度論的に再構築する必要があることがわかった. これは, 全変動測度の全測度によるRadon-Nikodym微分における特異測度の特徴付けと深い関係があることから, 定常問題における発散定理と境界の解析を行った. 定常問題の手法を考察することが, 本研究における平均曲率流の弱解の境界挙動の研究につながると考えられる. また, 解の安定性問題についても進展があった. 解の安定性解析を行うために, 解析のしやすい平均曲率流のグラフ解について, 時刻無限大における漸近挙動の手法を調べた. 時刻無限大における境界の漸近挙動を調べることで, グラフ解とは限らない平均曲率流の弱解の境界の漸近挙動にも知見を与えられると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
Liu-佐藤-利根川, 高棹-利根川により, ユークリッド空間上の背景流付き平均曲率流の弱解の存在定理が証明された. 2013年度は直交境界条件付きの背景流のない平均曲率流の弱解の定式化と存在定理を証明した. これらの手法を組みあわせることにより, 直交境界条件と背景流のついた平均曲率流の弱解の定式化とその存在を証明できると思われる. 特に, 解が存在するための背景流の正則性に関する十分条件の導出や, 背景流が境界に与える影響を定量的に評価することは重要な問題であると思われる. 特に, 後者について, 境界のエネルギーを背景流によってどのようにコントロールできるかを明らかにすることにより, 最適制御理論や逆問題への足がかりになると考えられる. 研究協力者の高棹氏との共同研究である, 直交境界条件と背景流の付いた平均曲率流のグラフ解の境界勾配評価と, グラフ解の存在もひき続き研究を行う. さらに, 背景流と境界勾配評価の関係性や, 時刻無限大における境界の漸近挙動についても考察を行う. 利根川教授との研究で得られた, 直交境界条件の弱解の定式化の妥当性を調べるためには, 放物型境界正則性理論を構築する必要がある. 放物型内部正則性理論についてはBrakke, 葛西-利根川によって構築がなされているが, 境界正則性理論については未だ構築がなされていない. 内部正則性理論をもとにして, 共同研究によって得られた定式化の放物型境界正則性理論の構築を試み, 弱解の定式化の妥当性を調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度に予定していた海外出張について, 日程の調整ができなかった. このことにより, 残額が発生した. 主に, 研究打ち合わせや学会参加, さらに本研究に関する研究集会企画のための国内旅費に使用する. また, 研究協力者からの研究情報提供に対する謝金として使用する.
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