研究課題
若手研究(B)
本研究の一つ目の課題は、退化拡散項と保存型非線形移流項を持つ退化放物型方程式の適切性を考察することである。特に、拡散項が退化する領域が正の測度を持つ、「強退化」と呼ばれる場合に焦点を当てている。強退化放物型方程式は、現存する様々な数学モデルに適用できることが確認されている。しかしながら、非線形移流項の持つ特異性(不連続性)と拡散項の持つ退化性が、その解析を困難なものとしている。本年度は、強退化放物型方程式の多次元初期値問題に対して動力学的定式化を行い、一般化された解の一意存在性を得ることができた。特に、全ての係数が滑らかな場合を取り扱い、BV空間内のエントロピー解(BV-エントロピー解)を与えるような非線形半群を構築することができた。さらに、構成したBV-エントロピー解の一意性をKruzkovの二重変数法を用いて示すことができた。本研究の二つ目の課題は、2000年にKobayashi-Warren-Carterによって導出された結晶粒界現象を記述する数学モデルに対する適切性の考察である。この方程式は、未知関数に依存する重みの付いた全変動汎関数の勾配流として記述される、二つの非線形放物型方程式の連立系である。第一方程式は未知関数の全変動測度を持つ熱方程式であり、第二方程式は未知関数依存の重みを持つ特異拡散方程式である。本年度は、第二方程式の時間微分に関する項の係数が退化する場合を取り扱い、1次元Neumann問題の解の存在性を得ることができた。さらに、構成した解がエネルギー消散性を持つことを示し、解の時間大域的挙動も得ることができた。また、初期関数を自由エネルギーの定義域の閉包から取った場合は解の存在性を示すことができなかったため、係数が退化する場合は放物型方程式としての平滑化効果が期待できないことも確認できた。
2: おおむね順調に進展している
当初計画していた通り、強退化放物型方程式に対する動力学的定式化を用いた解の存在性と一意性を証明することができた。本年度は係数が全て滑らかな場合を取り扱った。この結果と考察から、本手法は係数が不連続な場合に対する場合にも適用可能であることが予想され、そのために示すべき評価や課すべき条件をリストアップすることもできた。結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しても、第二方程式の時間微分に関する項の係数が退化する場合が示せた。これも当初計画していた結果である。さらに、構成した解のエネルギー消散性や時間大域的挙動も得られた。以上により、本研究は「おおむね順調に進んでいる」といえる。
本年度の成果を踏まえ、不連続な係数を持つ強退化放物型方程式に対する動力学的定式化を用いた解の構成に取り組む。これには当初予定していた時間差分を用いるGiga-Miyakawaの方法に加え、Lions-Perthame-TadmorやChen-Perthameによる方法を適用することも視野に入れる。これは、初期値・境界値問題への適用を行うために必要と思われる方策である。また、拡散項の係数が時間・空間変数に依存する場合も考察し、適切性理論の考察をさらに深めていく。結晶粒界現象を記述する数学モデルに対しては、多次元問題を取り扱う。実際、2013年にMoll-Shirakawaによって多次元問題の解の存在性が証明されたため、問題を考える足掛かりは既に得られている。今後は多次元問題の解のエネルギー消散性や時間大域的挙動を研究協力者の白川健氏と共に考察する。
年度末に予定していた出張が急遽変更となったため、未使用額が発生した。別日程の出張の旅費を清算する予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (6件)
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