研究課題/領域番号 |
25800086
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研究機関 | サレジオ工業高等専門学校 |
研究代表者 |
渡邉 紘 サレジオ工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30609912)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 退化放物型方程式 / 変数係数 / 適切性 / エントロピー解 / 結晶粒界現象 / 変分不等式 / エネルギー消散性 / 時間大域的挙動 |
研究実績の概要 |
本研究の一つ目の課題は、強退化放物型方程式に対する数学解析である。本年度はまず、昨年度取り組んだ変数係数を持つ強退化放物型方程式の解析の応用として、拡散項を持つ交通流モデルの連立系を取り扱った。本モデルはケイフィッツ・クランツァーによって導出された弾性体を記述する双曲型保存則系の一種と見ることができ、補間測度法を用いた弱解の存在が先行研究により得られている。本研究では拡散項を加えたモデルの可解性について考察した。そして、拡散係数が空間変数を時間変数に依存する場合における弱解の存在を得ることができた。次に、適合エントロピーを用いた強退化放物型方程式の一般解の定式化と一意存在について考察した。一般解の定式化と存在については得られたが、一意性は得られず、来年度の課題となった。適合エントロピーは方程式の定常解を用いた定式化を行うが、強退化放物型方程式の定常解の構造を特徴付けることができなかったことが問題点である。 本研究の二つ目の課題は、結晶粒界現象を記述する数学モデルに対する数学解析である。本年度は潜熱の効果を含む熱方程式と連立させたモデルを取り扱った。この連立系はフィックス・カジナルプ型と呼ばれ、ヒルベルト空間内で解析できることがよく知られている。本研究では熱方程式に第三種境界条件(ロバン境界条件)、結晶粒界モデルには第二種境界条件(ノイマン境界条件)の下で考察した。そして変分不等式の意味の解の存在を得た。更に構成した解は、ある種のエネルギー消散性を持つことを確認した。考察しているモデルには外力(熱源)が含まれているため、エネルギー消散性を考察する際にはこの点を考慮して考える必要がある。そのため、多少一般化された意味になっていることに注意する。このエネルギー消散性を用いて解の時間大域的挙動も得た。実際、構成した解は時刻無限大において定常解に収束させることができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究により、拡散項を持つ連立系を取り扱う場合、拡散係数が解自身に依存すると本質的な困難さが発生することが確認できた。また、適合エントロピー解の一意性を示すには、定常解の構造をより詳細に解析しなければならないことが分かった。よって研究計画立案当初には把握できなかった困難さが発生し、研究計画を達成するための道筋を修正する必要が生じた。 結晶粒界現象に対しても、解の存在や時刻無限大における挙動に関する結果は順調に得られているが、解の構造に関する解析については研究中である。 以上により、本研究課題は「やや遅れている」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
拡散項を持つ交通流モデルの連立系に対しては、再度先行研究を確認し、数学的に解析できる枠組みの構築を行う。特に拡散項に対する評価に対しては、H測度を用いた取扱いに焦点を当てて考察する。また、適合エントロピー解の一意性を証明するために、強退化放物型方程式に対する定常解の構造をより詳細に解析する。特に具体的な解の構成を試み、その特徴づけを行うことを通して一般的な定式化を行う。さらに現在までの研究成果を基に、強退化放物型方程式の動力学的定式化を用いた解析にも取り組む。 結晶粒界現象を記述する数学モデルの解の具体的形状については、一次元問題から始め、モデルを常微分方程式で特徴づけるところから考察を行う。また、数学解析に加えて数値計算を用いた考察も取り入れる予定である。この課題については研究協力者である白川健氏と打ち合わせを密にし、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画していた海外出張がキャンセルになったため、未使用金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は共同研究者との打ち合わせを更に密に行うための旅費や、数値計算を行うための計算機の購入費に使用する。
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