本研究の一つ目の課題は、強退化放物型方程式に対する数学解析である。本年度は、昨年度までに取り組んだ変数係数を持つ強退化放物型方程式に対する解析の応用として、非局所量に依存して連立する強退化放物型方程式系に対する初期値問題の適切性を考察した。この定式化は群集動態、レーザー技術、凝集現象、交通流などに応用されるものである。 本研究ではまず、単独の方程式のパラメーターに対する連続的依存性を証明した。この結果と昨年度までに得られた適切性に関する結果と縮小写像の原理を用いて、一意なエントロピー解を有界変動関数の空間内で時間局所的に構成した。次に時間大域解を得るために、昨年度までに得られた単独の方程式に対する適切性の結果の見直しを行った。特に、近似解に対する可積分性の評価と有界性の評価を解の最大存在時刻に依存しないように評価し直すことで、一意なエントロピー解を時間大域的に構成した。
本研究の二つ目の課題は、結晶粒界現象を記述する数学モデルに対する数学解析である。本年度は共同研究者であるモール氏(バレンシア大学)を千葉大学に招聘し、白川健氏(千葉大学)と共に共同研究を行った。そして結晶の方位角を表す未知関数θに対して斉次ディリクレ境界条件を課した初期値境界値問題に対する解の存在を得た。未知関数θは有界変動関数となるため、古典的な意味で境界条件を満たすことが保証されない。このため自由エネルギーを適切に設定し直し、エネルギー汎関数としての基本的な性質を証明し直すことで、この困難さを克服した。次に自由エネルギーの非増加性を考察し、構成した解がエネルギー消散性を持つことを確認した。さらに構成した解の時刻無限大における解挙動を考察し、定常問題の解との関連を明らかにした。
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