研究課題/領域番号 |
25800088
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀬川 悦生 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (30634547)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子ウォーク / グラフゼータ / CMV行列 |
研究実績の概要 |
本年度の主に3つのトピックに関する成果を報告する。 1. 量子ウォークの固有値写像:量子ウォークの有限グラフ上のランダムウォークからのスペクトル写像定理を、結晶格子にまで拡張した。このことから、ランダムウォークから遺伝する固有空間の直交補空間である、生まれてくる固有空間のグラフのサイクルによる幾何的な特徴づけに成功した。そしてこの生まれてくる固有空間によって、結晶格子において一か所の周りに高い確率で常に粒子が存在する量子ウォークの局在化と呼ばれる性質を証明した。さらに、ランダムウォークの遺伝する固有空間においては量子ウォークの時間に関して線型的に遠方へ拡がる性質に寄与していることを示した。 2. グローヴァーウォークの正台:グローヴァーウォークの時間発展行列の2乗の正台から誘導される新しいタイプのグラフのゼータ関数を2サイクルと呼ばれる新しいパスの概念を導入することによって定義し、その零点に関する行列式表示や、スペクトル分解を行い、いくつかのグラフの幾何的な特徴量の抽出に成功した。 3. CMV行列と量子ウォーク:複素平面の単位円周上の直交多項式に付随するローラン直交多項式で展開されるシューアのアルゴリズムと、非均一な媒体上の一次元上の量子ウォークの解析で用いられる母関数を用いた組み合わせ論的手法との間に一対一の関係を導き出した。ローラン直交多項式と複素列のシューア変数と呼ばれるものは一対一の関係にある。この応用として、シューア変数が一次関数的に0に減衰していく場合の量子ウォークの挙動について、解析的に導くことができた。今までの量子ウォークの研究では現れてこなかった、非自明に先ほどの線型的な拡がりよりもより強く、弾道的に遠方へ拡がっていきつつも、やはり原点周辺に局在化を与えるという興味深い結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が掲げている、量子ウォークによるグラフの幾何的構造の抽出において、二つの事柄について明確することができた。 1. 有限グラフのサイクルによる幾何的な特徴づけ:有限グラフ上のランダムウォークからの固有値写像からでは反映されない、生まれてくる固有空間は、グラフの本質的サイクルで生成される。実は生まれてくる固有空間の次元はグローヴァーウォークでグラフが二部グラフでなければグラフのベッジ数の二倍になる。 2. グラフのサイクルと量子ウォークの局在化:有限グラフ上のランダムウォークからの固有値写像定理を一般の結晶格子上のランダムウォークへ拡張することができたため、局在化という量子ウォーク特有の概念によってグラフのサイクルの存在の必要条件を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 量子ウォークの固有値写像における有限グラフから無限グラフへの拡張。 2. 量子ウォークの局在化の要因について:今年度の成果によってグラフのサイクルの存在が一つの原因であることが判明したが、それ以外にもサイクルのない無限ツリーにおいても実は局在化が起こせる。これはグラフのある種の双曲性が起因していると考えられているが、これについてより精密な議論を与える。 3. ユニタリ作用素から得られるグラフのクラス:量子ウォークのユニタリ時間発展作用素を一度グラフのことは忘れてより関数解析的な視点から拡張することができる。このような構成をしたときに、どのようなグラフが誘導されるのかについて考察する。 4. セゲークラスと量子ウォーク:量子ウォークの弾道的ふるまいと単位円周上の直交多項式で盛んに展開されているセゲークラスと呼ばれる多項式との一対一対応を証明する。
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