研究概要 |
本年度の研究目的は, 有限体上の「円分強正則グラフ」と「歪アダマール差集合」と呼ばれる離散構造の関係を明らかにし, 円分強正則グラフの存在性を仮定した, 歪アダマール差集合の新たな構成法を提案することであった. 歪アダマール差集合が基本可換群上で存在すれば, それらは平方剰余差集合と同値であるという予想が知られていたが, 近年, Ding-Yuan(2006)らがこの予想の反例を発見した. この研究を境に, 既に多くの研究者が更なる反例を与えてきたが, Feng-Xiang(2013)らが与えたいくつかの反例が, Schmidt-White(2003)らが発見した散在的な円分強正則グラフと存在性が一致しているという点に着目し, その関係を明らかにすることを課題とし研究を行った. 今回, この研究課題を計画通り遂行することができ, 円分強正則グラフの存在を仮定し, 歪アダマール差集合の存在性を証明することに成功した. この結果は, 一見関係のない二つの離散構造の間に強い結びつきがあることを示した興味深い結果であると思われる. この結果は, 既に国際学術誌に掲載された. また, 3年目の研究計画の一部であった歪アダマール差集合の非同値性の問題にも取り組んだ. この問題が困難であったのは, 他の差集合と違い既存の同値性の不変量がパラメータのみで決定してしまうという点であり, 新たな不変量を導入する必要があった. 今回, この問題にも取組み, 新たな不変量として「素数を法とする三重交差数」というものを提案し, Feng-Xiang(2013)が発見した歪アダマール差集合が平方剰余差集合と非同値なものを無限個含んでいることを示した. この研究成果は, 既に国際学術誌に掲載された. また, この結果について, 国内外の3つの研究集会で講演を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の当初の目的は, 円分強正則グラフを仮定し, 歪アダマール差集合の存在性を証明することであった. この目標について, 計画通り, 証明を完了し, 目標を達成することができたという点で, 研究は順調に進んでいると評価できる. この研究については, 更なる一般化を考えることができる可能性があり, 今後の進展も期待できる. また, 3年目の計画に挙げていた, 歪アダマール差集合の非同値性も問題についても, 進展があった. 特に, 非同値性の新たな不変量「素数を法とする三重交差数」を導入し, 非常に特別な場合ではあるが, Feng-Xiang(2013)らが得た歪アダマール差集合の無限個の例が平方剰余差集合と非同値であることを証明した. その証明の手法は, 整数論において知られている, Weilの乗法的指標和の定理と指数2型のガウス和と呼ばれる指標和を組み合わせて計算するもので, 整数論と組合せ数学の双方の視点で興味深い結果であると思われる. このような面から, 一部ではあるが, 当初の研究計画以上に研究が進展している. さらには, 今年度, 関連した研究内容で7本の論文(査読有)が国際学術誌に出版されたという点も強調したい.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は, 円分強正則グラフの存在性を仮定した歪アダマール差集合の構成法を与え, 計画通りに研究が進んだが, その結果は更なる一般化を与えることが可能である可能性があり, その問題に取り組む. 最近, Ding-Pott-WangらがDickson多項式を用いて歪アダマール差集合の構成法を与えたが, それと今回の私の結果を融合させることができるのではと予想している. まずは, 計算機を用いていくつかの例で構造を明らかにしておき, 続いて証明を試みる. 次に, 当初の研究計画の通り, 有限体上の強正則グラフという条件を除き, そのかわりにアソシエーションスキームに関する条件をいくつか加えた上で, ある強正則グラフとアダマール行列の存在性の同値性の証明を試みる. (または関係を明らかにする.) 続いて, 既存の歪アダマール差集合と平方剰余差集合との非同値性についてより一般的な不変量の開発を試みる. 今年度得た結果では, 非常に限られたクラスの差集合にのみ不変量が適用可能であったため, より広範囲にそれが適用できるよう改良, および新たな不変量の模索を行う.
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