今年度は、バナッハ空間における非線形写像に対する不動点問題の研究を行った。さらに、前年度までの不動点理論に関する成果を応用することにより、測地線の構造を持つ距離空間における凸関数の最小化問題について研究した。 以下では、今年度に発表したそれぞれの論文の概要を述べる。 1. バナッハ空間における微分可能な凸関数に付随して定まるBregman distanceを用いてChatterjea写像の概念を導入し、写像の定義域の凸性を仮定せずに不動点定理と不動点近似定理を得た。この写像概念はヒルベルト空間におけるnonspreading写像の一般化である。主結果の証明において、鈴木 [Fixed Point Theory Appl. 2014:47 (2014)] による二重数列に関する補題を用いた。 2. アダマール空間 (完備CAT(0)空間) における凸最小化問題を研究した。ここで、アダマール空間とは非正の曲率を持つ完備な測地的距離空間のことであり、ヒルベルト空間やヒルベルト球の一般化である。ここでは、凸関数のリゾルベントと凸構造を用いて定義される二つの最小点近似列の漸近挙動に関する結果を得た。 3. 完備CAT(1)空間における凸最小化問題を研究した。この空間は、アダマール空間やヒルベルト球面の一般化である。ここでは、木村と高阪 [J. Fixed Point Theory Appl. 18 (2016)] が導入した凸関数のリゾルベントを用いることにより、近接点法によって生成された点列の漸近挙動を研究した。これは、Rockafellar [SIAM J. Control Optim. 14 (1976)] やBrezisとLions [Israel Journal of Mathematics 29 (1978)] による研究成果のCAT(1)空間版の結果とみなすことができる。
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