数理生物学に現れる非線形差分方程式のいくつかは形式的にLotka-Volterra(微分)方程式で近似できる.本研究は,その形式的な近似を数学的に確かなものとし,近似方程式の解析により,元の非線形差分方程式の性質を明らかにする研究を行った.
[1] 近似の数学的な正当化に関しては,次のことを明らかにした.対象とする非線形差分方程式がLotka-Volterra方程式の1段1次の離散化方程式としてみることができる場合に,近似前の非線形差分方程式の平衡点の安定性が,Lokta-Volterra方程式の平衡点の安定性と一致するための条件を,Liapunovの直接法を用いて与えた.漸近安定な平衡点の吸引域は離散化パラメータに対してロバストであることも示した.この結果は,Lotka-Volterra方程式で近似される場合に限らず,一般的に成り立つことも示された.
[2] 1回繁殖型Leslie行列モデルと呼ばれる非線形差分方程式はLotka-Volterra方程式で形式的に近似できる.このLeslie行列モデルは近似により導出されるLotka-Volterra方程式の1段1次の離散化方程式であることを示した.[1]の結果を応用し,Lotka-Volterra方程式を調べることで,Leslie行列モデルの絶滅平衡点から分岐する平衡点や周期解の安定性を明らかにできることを示した.この研究結果により,セミなどに代表される1回繁殖型の生物が周期的に大発生するための条件を与えることが出来た.Leslie行列モデル以外に,結合Leslie行列モデル,ロッタリーモデルなども,Lotka-Volterra方程式の1段1次の離散化方程式であることを示した.また,本研究の副産物として,Lotka-Volterra方程式で近似できない非線形差分方程式に関しても新たな成果を得ることが出来た.
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