研究課題/領域番号 |
25800102
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
細川 隆史 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30413967)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 宇宙初代星 / 種族III星 / 超巨大ブラックホール / 大質量星 / 銀河形成 / 宇宙初期天体 / 金属欠乏星 / 原始星 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度の研究に引き続き、初代星形成の3次元計算の研究を進めた。原始星からの光電離と解離フィードバック両方を含めた質量降着段階長期(~10万年)進化の3次元計算が初めて可能になった。宇宙論的シミュレーションで得られた複数のガス雲における進化計算もすでに終了しており、初代星質量のガス雲の個性に応じた多様性が改めて示された。特に3次元計算では原始星への降着率が激しく時間変動し、それに伴って原始星が急膨張と収縮をくり返す現象が見られた。星のUV光度もこれに合わせて大きく変動するため、電離領域の消失と再形成がくり返される"間欠的UVフィードバック"の描像が新しく得られた。現在は結果を論文にまとめている段階である。 一方、これまでの2次元計算に基づく初代星質量分布の研究もさらに大きく拡張されて継続された。本年の研究で特筆すべきはまずガス雲のサンプル数の多さであり、実に 1500 例以上のガス雲の重力収縮過程を計算した。さらに、種族 III 星の形成過程は周りの他 の星が作る UV 輻射場にも依存することが分かって おり、輻射強度に応じて III.1 星、III.2 星の副種族に 分かれると言われている。我々は次々と生まれる種 族 III 星が作る紫外光輻射強度を全ての星形成ガス雲で評価し、III.1/III.2 別の星質量分布を計算した。 その結果、100Msun を上回る大質量の星が全体とし ては多いこと、redshift が下がるにつれて III.2/III.1 星の比が小さくなって平均星質量が下がること、などの性質を初めて予言した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2次元計算と宇宙論的シミュレーションを組み合わせた統計的研究はさらに進展し、種族III星内の副種族を含めた星質量の分布を1000を超える星形成ガス雲を用いて求めて論文を出版することが出来た。3次元計算も宇宙論的初期条件から得られた複数のガス雲に対して進化を追うことが可能になり、質量降着率の激しい時間変動とそれに反応した間欠的フィードバック過程の描像が新しく得られた。3次元計算の空間分解能に対する依存性を見るなど、計算の細部を詰めるのに時間を要したがようやく結果がまとまり、現在論文を執筆している段階になっている。当初の計画では金属量ゼロの場合をまず調べ、さらにわずかながら金属量のある場合まで拡張する予定になっていたのでそれに比べるとやや進展は遅くなっている。ただし、2次元計算の時とは別のコードを使用しているため、ある程度時間がかかることは承知の上であり、この程度のオーバーヘッドは予想の範囲内である。
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今後の研究の推進方策 |
金属量ゼロの場合の3次元計算が可能になったので、次に有限の金属量を付加した低金属量環境での大質量形成過程を調べる。このためには金属量ゼロの場合に用いられているUV光輸送の計算の他にダスト熱放射の輸送を解く必要がある。これは銀河系での大質量星形成においては支配的なフィードバック過程であり、国外の共同研究者でもあるR.Kuiper氏らにより開発済みである。これとUV光輸送を組み合わせることにより、低金属下で生まれる大質量星からのフィードバック過程を追うことが出来る。このようにUV光とダスト熱放射両方によるフィードバック過程は実は銀河系での大質量星形成過程でも効くはずであるが、こうした研究はこれまでに行われてこなかった。低金属の場合に限らず、銀河系での大質量星形成においても、こうした新しい効果を取り入れた研究を行う。これによってこれまで別個に行われてきた初期宇宙での大質量星(初代星)形成と、銀河系での大質量星形成の研究を統一的に扱うことができるようになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究成果をまとめた論文出版が次年度に持ち越しになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
執筆中の論文を出版し、その出版費用にあてる計画である。
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