研究課題/領域番号 |
25800110
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
木村 公洋 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 非常勤研究員 (10565328)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電波天文用受信機開発 / 広帯域アンテナ |
研究概要 |
本研究は、電波天文学に用いる受信機の広帯域化である。従来のセンチ波帯やミリ波帯での受信機は、開口アンテナで電波を集光した後、開口フィードホーン等を用いて導波管へと給電していた。その為、導波管のカットオフの制限があり、比帯域は0.3程度が最大であった。そこでクワッドリッジアンテナの開発を行い、実用化を目指している。このクワッドリッジアンテナはテーパースロットアンテナを直交に組み立てた様なアンテナ構造をしており、出力は同軸コネクタ(SMAやKコネクタなど)になっている。その利点は、直交した両直線偏波に感度を持ち、かつ超広帯域(2~18GHzなど、比帯域1.6)特性を持つことである。 この広帯域特性を持つクワッドリッジアンテナにおいて、低周波タイプとして2~18GHz帯、また高周波帯として20~50GHz帯の開発を進めている。前者の低周波数帯には、メタノールメーザー(6.7GHz帯)などの輝線が含まれており、日本や東アジアのVLBI(超長基線干渉計)観測に用いる事が期待できる。後者の高周波数帯アンテナは、水メーザー(22GHz帯)やSiOメーザー(43GHz帯)が存在しており、それらを一つのアンテナで観測することは、両輝線観測間のビームスクイント(ポインティングの器差)や、既存の電波望遠鏡に新たに受信装置を増設する上で設置スペースの節約の点からも非常に有意義である。また、このアンテナは両偏波成分を同時に独立に取得する事が可能なため、偏波分離器の役目も果たすことができる。その為、従来VLBI観測で用いられていた偏波分離器などは不要となり、システムの小型化、低損失化を測ることができる。 このアンテナを含んだシステムの開発を進め、従来の狭帯域の受信機と同様以上の受信機雑音温度性能を達成すれば、広帯域の点で非常に優位となり、今後の受信機開発のブレイクスルーになると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低周波数帯(2~18GHz)のクワッドリッジアンテナを単体で、アンテナビーム特性や反射特性などの測定を行い、シミュレーションと良く一致する結果を得た。これらから、設計製作方法の確立、ビームパターンの測定手法などが、確立できたと考えている。 次にこのアンテナを用いた受信機システムの設計を進めている。一般的に電波天文学に用いる受信機は低雑音化するために冷却して用いられる。その為、真空断熱容器(Dewar)の開発を進め、その中に、アンテナごと受信機を挿入する。その時、問題になるのが、電波窓である。電波信号をDewar内のアンテナにロス無く導くため、Dewarに誘電体材の窓を開ける。この窓が大きいと力学的に弱くなり、小さいと電波の伝搬を邪魔してしまう。そこで、実際にDewarと同じ大きさの構造を製作し、その構造にアンテナを挿入してアンテナビームパターンの測定を行った。その結果、高周波側において、Dewar内径にアンテナから放射した電波が反射するようなパターンが見られた。また、低周波数側では、アンテナとDewarの隙間が電波的に認識されず、Dewarの内径を開口ともつアンテナの様な振る舞いをした。今後は、Dewar窓とアンテナの位置をシミュレーションと測定で検討し、最適な位置を決定し、冷却受信機システムの開発を進める。 また、高周波数帯(20-50GHz)のアンテナは、低周波数帯の開発ノウハウを活かして、試作を行ったところである。しかし、高周波数帯は低周波数帯と異なり、測定装置などが身近に存在しない。その為、評価システムの検討を進め、性能測定を実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
低周波数帯のアンテナおよび受信機システムの構築は順調に来ている。今後は、実際に電波天文用の望遠鏡に搭載して実用化にむけた開発を進めていきたい。そこで、今年度中頃に当大学に口径3.8mのアンテナを移設する計画を進めている。このアンテナを望遠鏡として運用するための、駆動系や中間周波数系、データ取得系、観測プログラムなどの開発を進めていく。このアンテナに低周波数帯の本研究で開発したアンテナシステムを搭載し、試験観測を進めることで、実用化に向けた仕上げを行う。また、このアンテナの鏡面は20GHz帯でも使用できるため、低周波数帯アンテナの実用化が終われば、高周波帯アンテナの搭載にも使用することが可能である。
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