研究課題
若手研究(B)
銀河団の観測的研究については、力学的進化の解明として銀河団のX線と弱い重力レンズ効果による観測から銀河団外縁部の高温ガスの物理状態について詳細に調べた。その結果、銀河団外縁部では中心部とは違い静水圧平衡の仮定が成り立たないであろうということを示した。化学的進化の研究として、「すざく」衛星で観測された遠方銀河団の観測から銀河団に含まれる鉄が過去から現在までどのように変化してきたのかについて詳細な解析をおこなった。また、銀河団よりも規模の小さな銀河群において、「すざく」で観測された数個の銀河群内の高温ガスの過去に起こった熱的過程を示す指標として「エントロピー」を用い、銀河団内に含まれる鉄の量に相関があることを初めて示した。これは、銀河群のような小さな系では、「エントロピー」が大きいために高温ガス、及びそこに含まれる鉄を過去に中心に集めきれていないことを示唆するものである。実験的研究としては、誘電体カロリメータの素子および読み出し回路の開発を行った。今年度は宇宙科学研究所との共同研究で、チタン酸ストロンチウムをマウントしたLC共振回路の開発を行った。まず我々は酸素の置換数が違うチタン酸ストロンチウムの温度に対する誘電率の変化の測定を行った。次に酸素置換を行わなっていないチタン酸ストロンチウム素子と並列にインダクタンスであるスタブ共振器を並べることにより、目標とする検出器の感度に近づくことを初めて確認した。我々は共振器としての性能実証のため、絶対温度2K という環境下でLED光をLC共振回路に照射し、光による熱入力を読み出すことによって初めてGHz帯での誘電体マイクロカロリメータの原理実証に初めて成功した。2015年度打ち上げ予定のX線天文衛星「ASTRO-H」搭載SXS検出器の技術立証モデル及び飛翔体モデルの冷凍機試験をJAXA及び住友重機械工業で行った。
2: おおむね順調に進展している
銀河団の観測的研究については、銀河団外縁部の物理状態を示すためにX線観測と弱い重力レンズ効果を組み合わせて観測によるバイアス効果を軽減させることにより、初めて銀河団の中心から離れた距離までの高温ガスの物理状態について制限をつけた。化学的進化についても、銀河団や銀河群でこれまで調べられていなかった「エントロピー」と元素量の関係に着目し、よい相関があることを示した。これらの成果をより固めるためのX線衛星への観測提案も採択され、今後も研究を推進できると考える。実験的に研究である誘電体カロリメータ開発も順調にチタン酸ストロンチウムと共振器の開発を概ね順調に開発を行うことはできた。しかし、今般の寒剤として使用する液体ヘリウムの入手困難さにより、極低温での実証実験の回数に支障を来し、素子や読み出し回路のパラメータの最適化を測る回数としては十分であるとは必ずしも言えない。このような寒剤の入手困難による遅れから研究費の一部を翌年度に繰り越した。
銀河団の観測的研究においては、昨年度の実績をより強固にするための観測提案を行い、採択された。本年度中に観測される予定であり、今後の銀河団の力学的、化学的解明を推し進める。実験的研究においては、昨年度よりは液体ヘリウムの入手が比較的容易になる傾向があるため、素子やLC共振回路の最適パラメータをもとめ、より極低温での信号検出に目処をつけることを考えている。また、今年度は2015年度打ち上げの天文衛星「ASTRO-H」搭載SXS検出器の飛翔体モデルの性能試験をJAXA及び住友重機械工業で行う予定である。
冷凍機実験には欠かせない寒剤である液体ヘリウムが入手困難であるという今般の事情のため、誘電体カロリメータ実験のパラメータ最適化が必ずしも十分な回数行うことが不可能であった。よって、最適化後の購入を予定していた基板や回路部品の調達ができなかったことに由来する。液体ヘリウムの供給が改善されてきたため、今年度に繰り越した金額を用いて基板や回路部品を購入し、それに加えて、実験データ解析環境を整えることを計画している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 1件)
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