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2013 年度 実施状況報告書

金属欠乏星の元素組成から探る、宇宙最初の10億年における天体形成

研究課題

研究課題/領域番号 25800115
研究種目

若手研究(B)

研究機関国立天文台

研究代表者

小宮 悠  国立天文台, 天文データセンター, 研究員 (10455777)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2015-03-31
キーワード初代星 / 元素合成 / 銀河形成 / 金属欠乏星 / 銀河系ハロー / 矮小銀河
研究概要

原始銀河の合体成長を考慮した、初期銀河系の元素組成進化モデル計算を行い、初期宇宙で生まれた星の生き残りである金属欠乏星の、元素組成分布についての解明を進めた。
特に、速い中性子捕獲過程により形成される元素(r過程元素)の組成進化についての研究を行った。金属欠乏星においては、r過程元素組成に大きな多様性があることが知られており、初期宇宙でのr過程元素進化の解明は、r過程元素の起源、初期銀河の星を探る鍵と考えられる。しかし、r過程元素が、どのような天体で形成されているのかは、天文学における長年の未解決問題であった。有力な説としては、超新星起源とする説と、連星中性子星の合体とする説がある。25年度の研究では、原始銀河毎の組成進化の違いと、星形成後の星間物質降着を考慮することで、金属欠乏星のr過程元素組成分布を再現することに成功した。
r過程元素の起源としては、太陽質量の10倍程度の比較的低質量の超新星のみがr過程元素を放出すると考えた場合に、金属欠乏星観測とよく一致することが示された。また、特に金属欠乏星には、r過程元素が非常に少ない星があることが知られていたが、これらの星の起源はよく分かっていなかった。本研究の結果、これらの星は、r過程元素を全く持たずに生まれてた後、星間物質降着による表面汚染を受けた星であることが分かった。
また、初代星の生き残りの星についても研究を進め、特に原始矮小銀河の外に放出された星に着目した。初代星は、極めて小質量の矮小銀河で生まれたと考えられている。そのため、初代星の一部は矮小銀河から脱出し、銀河間空間に漂い出すことが考えられる。これらの星は、全く金属を持たないまま、銀河系の外縁部に生き残っている可能性がある。こうした星の分布の推定を行ったところ、銀河系外縁部に数百個程度あると期待される結果が得られた。今後はより具体的な観測可能性を評価していきたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は、金属欠乏星の元素組成を通じて、銀河形成史の初期段階における恒星の形成史と元素組成の進化を明らかにしていくことである。特に、銀河の形成初期段階は、小質量の原始矮小銀河の合体成長により形成されたと考えられることから、銀河の合体成長と組成の関連について探ることが重要な目的の一つである。具体的には、原始矮小銀河ごとの進化プロセスの違いや、星・超新星からの原始矮小銀河へのフィードバックの影響を解明することが必要になる。
現在までの研究においては、当初の計画通り、階層的化学進化モデルの改良を行い、超新星からのフィードバックによる銀河間空間の金属汚染の影響や、原始矮小銀河から脱出する星の分布などを評価できるように改良した。また本研究の目的の一つである、初期宇宙環境における初期質量関数の変化についても、初期質量関数の金属欠乏星組成への影響を評価するためモデルを改良中であり、研究する準備を整えている。
この階層的化学進化モデルを用いた現時点までの成果として、金属欠乏星のr過程元素組成分布の再現に成功した。これにより、銀河系を形成した原始矮小銀河ごとの元素組成進化の多様性を定量的に示すことができた。この結果は、銀河系ハローの星が、多様な原始矮小銀河中で形成されたことの証拠であり、銀河の合体成長過程の元素組成への影響を明らかにしたものである。
また、原始矮小銀河の外に放出された初代星の分布についての研究も進めており、銀河系外縁部でこれらの星が観測可能であるとの示唆が得られている。こうした星が観測できれば、銀河の階層的形成の証拠となるとともに、初代星・初代銀河の性質の解明にもつながることが期待される。
こうした状況から、研究はおおむね順調に進展していると考える。

今後の研究の推進方策

上記のように、現在までの段階においては計算モデルの改良を行い、原始矮小銀河の組成の多様性や、初期質量関数の変化の影響などについての研究を始めている。
これまでは主に銀河系ハロー星に焦点をあててきたが、今後の研究ではこれに加えて矮小銀河にも焦点を当て、当初の計画通り、矮小銀河と銀河系ハローの形成過程の違いについてアプローチしていく方針である。特に、原始矮小銀河からのガス・金属元素放出や、放出されたガスによる他の銀河への影響を探っていく。
また、金属欠乏星の中でも特に、かつては大質量星との連星系にありそこから放出された星や、中質量星連星質量輸送の影響を受けたと考えられる炭素過剰星に着目することで、初期質量関数や連星の割合についての知見が得られると考えている。
当初の研究計画では考慮していなかった発見として、上記のように、原始矮小銀河から脱出する星が重要であることが分かった。脱出した星は現在では銀河系ハロー外縁部にあると期待され、その数や分布は、初代銀河の質量や初期銀河系の合体史にも依存する。そのため、これらの星を観測することができれば、初代銀河を探る新たな手段となりうるものである。これらの星につての解明は、当初の研究目的への新たな角度からのアプローチとなるため、推進していこうと考えている。
またこれまでの研究において、金属欠乏星への表面汚染の寄与の大きさが明らかになり、近年の観測的研究からも、表面汚染の強い影響が示唆される結果が得られている。これらのことから、金属欠乏星への表面汚染の影響についても、より詳細な研究が必要と考えている。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2014 2013

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)

  • [雑誌論文] The New Model of Chemical Evolution of r-process Elements Based on the Hierarchical Galaxy Formation. I. Ba and Eu2014

    • 著者名/発表者名
      Komiya, Yutaka; Yamada, Shimako; Suda, Takuma; Fujimoto, Masayuki Y.
    • 雑誌名

      The Astrophysical Journal

      巻: 783 ページ: 132

    • DOI

      10.1088/0004-637X/783/2/132

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Current signatures and search for Pop. III stars in the Local Universe2014

    • 著者名/発表者名
      Komiya, Yutaka; Suda, Takuma; Fujimoto, Masayuki
    • 雑誌名

      Memorie della Societa Astronomica Italiana

      巻: 未定 ページ: 未定

  • [雑誌論文] The stellar initial mass function in the early universe revealed from old stellar populations in our neighbourhood2013

    • 著者名/発表者名
      Komiya, Yutaka; Yamada, Shimako; Suda, Takuma; Fujimoto, Masayuki Y.
    • 雑誌名

      Proceedings of the International Astronomical Union

      巻: 295 ページ: 322-322

    • DOI

      10.1017/S1743921313005243

  • [雑誌論文] The Stellar Abundances for Galactic Archaeology (SAGA) Database - III. Analysis of enrichment histories for elements and two modes of star formation during the early evolution of the Milky Way2013

    • 著者名/発表者名
      Yamada, Shimako; Suda, Takuma; Komiya, Yutaka; Aoki, Wako; Fujimoto, Masayuki Y.
    • 雑誌名

      Monthly Notices of the Royal Astronomical Society

      巻: 436 ページ: 1362-1380

    • DOI

      10.1093/mnras/stt1652

  • [学会発表] 階層的化学進化モデルで探る金属欠乏星のrプロセス元素:連星中性子星合体説への制限2014

    • 著者名/発表者名
      小宮悠, 須田拓馬, 藤本正行, 山田志真子
    • 学会等名
      日本天文学会春季年会
    • 発表場所
      国際基督教大学(三鷹市)
    • 年月日
      20140319-20140322
  • [学会発表] 近傍宇宙における種族III星観測の可能性2013

    • 著者名/発表者名
      小宮悠
    • 学会等名
      理論懇シンポジウム
    • 発表場所
      東京大学柏キャンパス(千葉県)
    • 年月日
      20131225-20131227
  • [学会発表] Extremely Metal-Poor Stars and Chemical Signature of First Stars2013

    • 著者名/発表者名
      Y. Komiya
    • 学会等名
      The 12th international symposium on Origin of Matter and Evolution of Galaxies
    • 発表場所
      つくば国際会議場(茨城県)
    • 年月日
      20131118-20131122
  • [学会発表] 銀河系近傍宇宙で種族III星を探す2013

    • 著者名/発表者名
      小宮悠, 須田拓馬, 藤本正行
    • 学会等名
      日本天文学会秋季年会
    • 発表場所
      東北大学(宮城県)
    • 年月日
      20130910-20130912
  • [学会発表] Current signatures and search for Pop. III stars in the Local Universe2013

    • 著者名/発表者名
      Y. Komiya
    • 学会等名
      European Week of Astronomy and Space Science
    • 発表場所
      Logomo Centre, Turku, Finland
    • 年月日
      20130708-20130712

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公開日: 2015-05-28  

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