研究課題/領域番号 |
25800123
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
大谷 将士 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (90636416)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ニュートリノ / 二重ベータ崩壊 / 位置分解能 / シンチレックス |
研究概要 |
当該年度は、新エレクトロニクス(MoGURA)を用いたデータ解析の確立・次世代型発光バルーンのためのフィルム開発・および高感度光検出器の開発を行った。 まず、MoGURAで取得したデータを用いた解析方法を確立した。カムランド禅実験では、多数のシンチレーション光子を約2000本の光検出器PMTで観測し、その波形データをエレクトロニクスで処理して光子到達時間差を算出することで事象発生位置を再構成することができる。これによって検出器表面の放射性不純物由来のバックグラウンドを除去することが可能である。ここで、MoGURAは現行エレクトロニクスより時間応答が優れているため、原理的には高効率でバックグラウンドを除去することが可能であったが、データ処理のための解析アルゴリズムやデータプロセスシステムが未完成であった。本研究では全2000チャンネルに及ぶ大規模データを処理するためのアルゴリズムを開発し、さらに各チャンネルにおける波形データから再構成した観測時間と、観測光子数を組み合わせた事象発生位置再構成プログラムの実装とデータプロセスを構築し、実データを用いて現行エレクトロニクスよりも優れた位置分解能を持っていることを実証した。これによって、0νββ探索の感度を3%程度向上することが可能になった。 次に次世代発光バルーンを製作するために、近年開発されたシンチレックスの開発を進めた。特に、バルーン内で生じたバックグラウンド事象を識別するには十分な光量を持っていることが重要である。そこで、放射線源を用いた光量評価試験を行い十分な光量を持っていることを確認した。今後はバルーン製作にむけたXe透過率や引張り強度の測定を進める。 また、カムランド禅高感度化にむけた光検出器の開発を開始した。特に今年度は現行光PMTの劣化現象を発見し、その解明と次期光検出器にむけた対策の解明を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新エレクトロニクス(MoGURA)を用いた高感度化については、既に解析方法を確立し、その結果を日本物理学会2013年秋季大会にて発表した。当初の計画では研究を分化し粒子識別法を用いることで高効率化を目指す予定であったが、MoGURAの優れた時間応答による高精度位置分解能アルゴリズムの実現によって粒子識別に依存しない高感度化に成功した。位置分解能の向上によって地球ニュートリノ観測などについても高精度化が可能であり、様々な応用が期待できる。 また、発光型バルーンの研究に関してはシンチレックスの光量測定および基礎特製の測定を行った。その結果、シンチレックスがバックグラウンド低減に十分な光量を持っていることを実証し、日本物理学会2013年秋季大会および日本物理学会第69回年次大会で報告した。 これら二つの当初の計画に加えて、光検出器の高感度化によるカムランド禅の感度向上に着目し研究を開始した。特に、現行の光検出器の劣化現象をいち早く発見し、問題解決と次期計画にむけた対策を行うことができた。また、近年浜松ホトニクスで開発された高量子効率PMTに着目し、基礎特製の測定およびカムランドに特化した開発を進めている。これらの成果をまとめて日本物理学会2013年秋季大会にて発表した。 新たな開発と並行して、現行カムランドデータを用いて世界最大感度での0νββの探索に成功した。0νββ探索はニュートリノ質量や粒子タイプなどの基本性質を決定する上で非常に重要な測定であるため非常に注目度が大きい。そこで国内外様々な研究会で結果を報告した。 以上、カムランド禅高度化にむけた開発は計画書通りに進んでおり、並行して新たな開発の開始や現行データによる物理結果を得ることができた。よって、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
カムランド禅の高感度化を最大化するため、特に高量子効率PMTの開発を進める。今後最も深刻なバックグラウンドはニュートリノを伴う二重ベータ崩壊由来のイベントであり、カムランド検出器自体のアップグレードが必要になる。特に、高効率シンチレーターの開発やPMT用集光ミラーの開発が検討されているが、高量子効率PMTが最も対費用効果と実現性が高い。高量子効率PMTの実現にむけて、カムランドに特化した高電圧配分回路の開発およびインストールにむけた基礎特性測定システムの構築が必要となる。 PMTでは1000~2000V程度の高電圧を抵抗分割することで各アノードに適切な電圧を印加し、一個の光電子を数十万倍に増幅して優位な信号を得ることができる。ここで、数MeV領域の微弱な放射線から数GeVの宇宙線ミューオンまで様々な信号を同定するカムランド検出器では、3桁以上の広い範囲にわたって優れた線形性を有する光検出器が必要となる。しかし、空間電荷効果によって後段のアノードでの増幅率は飽和する傾向にあるため、電圧降下最適化のための抵抗分割回路の設計が必要になる。そこで、線型性を含めたゲインなどの基礎特性の測定と並行してカムランド用PMT抵抗分割回路の設計を行う。 次に、カムランド実機では約2000本のPMTが必要であり、高精度の測定には各PMTが同程度の基礎特性を有する必要がある。一方で、インストール後は測定を持続するためにPMTに直接アクセスすることはできないため、インストール前に全2000本の基礎特性のキャリブレーションを行わなければならない。そこで、キャリブレーションに必要な基礎特性を自動で測定するシステムを構築し、最速で測定を完了して実験の再開を目指す。 これらの開発と並行して、発光型バルーン実現にむけてシンチレックスの引張り強度などを測定し、バルーンプロトタイプ実現にむけて研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度中に所属機関が変更になり、研究環境を整備するにあたって予算の執行が遅れ、次年度使用額が生じた。移動にあたって研究の遅れが生じた期間はあったが、移動先である高エネルギー加速器研究機構(KEK)はBelle実験やT2K実験など日本を代表する素粒子実験をマネジメントする研究機関であり、円滑に研究を進めることが可能となった。特に、KEK Open-Itと連携してMoGURAエレクトロニクスの改良と次世代エレクトロニクス開発を開始できたが、これはカムランド検出器の高度化に極めて大きな意味を持っている。執行が遅れた予算に関しては既に高感度PMTの購入先と連絡を取っており、予定通り試験用のPMTを購入する費用にあてる。 試験用の高感度PMTの購入と、DAQマシンや検出器シュミレーション用の計算機クラスタなど、試験環境の整備するために使用する。「理由」欄で記述した通り、所属機関変更にあたって執行が遅れたが、既にPMTの購入先とは相談が進められており、計画通りに予算を執行できる。
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