研究課題/領域番号 |
25800129
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山崎 高幸 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任研究員 (40632360)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / ポジトロニウム / 原子・分子物理 / テラヘルツ / 光源技術 |
研究概要 |
世界で初めてポジトロニウム超微細構造を直接測定した。本実験においては、ポジトロニウムに照射するミリ波の周波数を変化させながら、大強度ミリ波によって引き起こされるオルソポジトロニウムからパラポジトロニウムへの誘導遷移量の変化、すなわちBreit-Wigner共鳴曲線を直接測定する。遷移量はミリ波の強度および周波数に依存するため、ファブリペロー共振器内に蓄積されたミリ波のパワーおよび周波数を正確に測定する必要がある。 周波数を高精度でモニターするため、大強度ミリ波のごく一部をショットキーバリアダイオードにホーンアンテナを用い準光学的に結合させ、高精度な周波数源とヘテロダイン混合させることで差周波数をスペクトルアナライザを用いて測定期間中常時モニターするシステムを構築した。 また、ファブリペロー共振器内部に蓄積されたパワーを測定するため、蓄積パワーの一部をミラーから透過させ、焦電検出器で常時モニターするシステムを構築した。ミリ波の周波数を変更させた際のパイロ検出器や各光学素子の応答については、大口径なビームチョッパーを製作しミリ波ビームパワーと焦電検出器の応答電圧を同時に測定することで、絶対精度15%程度で実測した。 これらのシステムを構築後、ポジトロニウム超微細構造の測定のための遷移データ取得を行った。ミリ波の有無によるポジトロニウム生成率の変化に伴う系統誤差をなくすため、ネオペンタンガス中でポジトロニウムを生成した。測定周波数は201.83~205.31GHzの範囲で7点、非遷移点である180.6GHzに1点である。これらのデータを解析して得られたBreit-Wigner共鳴曲線からポジトロニウム超微細構造の値およびパラポジトロニウムの崩壊率を世界で初めて直接測定した。この結果はarXiv:1403.0312にて公開済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本実験においては、大強度ミリ波源であるジャイロトロンの出力周波数を変化させるため、内部空洞共振器を径の異なるものに変更して測定を行う。この変更の際、ジャイロトロンの真空が破れるため、交換のたびにジャイロトロンのエージング作業を行う必要がある。また、ジャイロトロンは発振周波数が高いため、内部空洞共振器の径は5mm程度と小さく、内部空洞共振器と超電導磁石の磁力線との相対位置によって発振の状態が大きく変化する。そのため、内部空洞共振器の交換後にはジャイロトロンのアライメント作業が重要となる。これらの作業には当初1ヶ月近くかかっていたが、発振条件に関する研究および作業手順の最適化を行い、最終的には2週間弱にまで短縮した。また、アライメント手法の確立により、ジャイロトロンの出力パワーが安定して300Wを超えるようになり、遷移測定のS/N比が向上し、測定時間の短縮につながった。 以上の理由より、当初の計画に比べ、半年程度早く研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
遷移測定によって得られたデータの解析結果をまとめ、論文を投稿する。また、国内および国際学会での発表を積極的に行う。特に本研究は、陽電子・ミリ波・素粒子といった複数の分野にまたがる研究であり、それぞれの学会で成果発表する。 さらに、最終的な目標であるポジトロニウム超微細構造の測定値と理論値のずれの検証に向け、測定誤差を減らすための研究を行う。特に、パワー測定精度を向上させるため、光源であるジャイロトロンを含めたミリ波光学系全体を見直し、10ppmレベルの精密測定の可能性を検討する。また、統計精度を向上させるため、低速陽電子ビームを用いた真空でのポジトロニウム生成についても検討する。
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