研究課題
ポジトロニウムは電子と陽電子の束縛状態であり、束縛系QEDで記述される最も基本的な系である。基底状態におけるオルソポジトロニウムとパラポジトロニウムの間のエネルギー準位差は電子と陽電子のスピン・スピン相互作用によって生じ、超微細構造と呼ばれる。これを精密に測定することは束縛系QEDの検証にとって重要であり、過去に繰り返し測定が行われてきた。しかし、理論値と実験値の間に4σ程度の有意なずれが存在しており、さらなる実験的検証が必要である。過去の測定は全て静磁場によってゼーマン分裂した準位間のエネルギー差を測定し、その値から間接的に超微細構造の値を求めていた。しかし、ポジトロニウム生成領域全体にわたって一様な磁場を印加することは極めて難しく、磁場の非一様性が最大の系統誤差要因となっていた。本研究では、静磁場を用いずに高強度ミリ波を用いて直接オルソポジトロニウムからパラポジトロニウムへの誘導遷移を引き起こすことで超微細構造を直接分光測定した。高強度ミリ波は光源であるジャイロトロンからのガウスビームをファブリーペロー共振器に蓄積することでアベレージパワーで10kWを超えるものが得られている。ジャイロトロンの発振周波数を断続的に変化させながら超微細構造間遷移量の変化を測定し、遷移曲線の中心値から0.1%の精度でポジトロニウム超微細構造の値を決定した。これは世界発の直接測定であり、結果はProg. Theor. Exp. Phys. 2015, 011C01 (2015)に掲載された。
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Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2015 ページ: 011C01
10.1093/ptep/ptu181
http://tabletop.icepp.s.u-tokyo.ac.jp/Tabletop_experiments/Home.html