研究課題/領域番号 |
25800130
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新倉 潤 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50644720)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 実験原子核物理 / 原子核構造 / ベータ崩壊 / ガンマ線核分光 |
研究概要 |
本研究の目的は、中性子過剰核亜鉛(Zn)同位体の励起準位測定により、二重閉殻構造を持つと予想されているニッケル-78核(Ni-78)における中性子一粒子軌道エネルギーを実験的に決定することである。Zn同位体の励起状態は銅(Cu)同位体のベータ崩壊によって生成され、励起エネルギーは崩壊ガンマ線の高精度エネルギー測定によって決定する。 実験は、EURICAプロジェクトの枠組みの中で行った。本プロジェクトは、主に理化学研究所と東京大学のグループが開発した位置感応型シリコン半導体検出器Was3abiによる、ベータ崩壊不安定な原子核、およびベータ線測定と、欧州ガンマ線検出器委員会のもつ高効率かつ高精度ガンマ線検出器アレイEuroBallの組み合わせにより、広範囲の原子核においてそのベータ崩壊特性を可能にすることを目的とした国際共同研究である。 本研究で提案したZn同位体の励起準位測定は、予定よりも早く2012年12月にその一部を遂行した。残りの実験も2013年5月に行い、予定していた実験を計画通り完遂した。現在はそのデータ解析を行っている。これまでに、非常に中性子過剰なNi-78核周辺において、新同位体発見とこれまで未測定のベータ崩壊核の半減期測定に成功し、本研究の目的であるZn同位体においてガンマ線核分光法による新励起準位の発見に成功している。発見された励起準位構造は、従来の予想とは異なる集団運動状態を示唆しており、現在その励起構造生成機構の解明を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で提案した実験は当初2013年度実施する予定だったが、加速器の運転スケジュールの変更により一部を予定よりも早い2012年12月に実施することとなった。残りの実験も2013年5月に実施し、すべての実験を計画通り遂行することが出来た。解析も順調に進行中であり、非常に中性子過剰なNi-78周辺核においてこれまで発見されていない新たな励起準位の同定に成功している。 実験計画は、実験実施が早かったこともあり当初の計画以上に進んでいる。一方で、測定された励起準位構造は計画段階で予想していたものよりも複雑で、また一部の原子核においては予想されていなかった集団運動状態を示唆する構造が測定されている。これらの準位構造の統一的な理解には、本研究で行ったベータ崩壊核分光のデータでは不十分である。現在、相互補完的な実験計画との共同研究によりこの問題の解決を目指しているが、この共同研究により今年度中には計画通りZn同位体の励起構造測定による二重閉殻Ni-78核の中性子一粒子軌道エネルギーに対する結論を出せるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度となる今年度は、まず実験の解析を完成し本研究の最終目的であるZn-81核の励起準位構造を確定する。本研究で到達可能な最も中性子過剰で生成率、統計収量の少ないZn-81核励起準位の同定には、現状の解析手法に加えて、より詳細で精密な解析手法の開発が必要であることがわかっている。現在この解析手法開発を、フランスのオルセー原子核研究所のグループと共同で行っている。 本研究で行ったベータ崩壊ガンマ線核分光は、励起準位の実験的なスピン・パリティの同定が困難である。研究計画当初は、より単純な準位構造が理論的に予想されていたため、スピン・パリティの同定の必要性はないと判断していた。昨年度行った共同研究者との議論において、本研究で測定されている複雑な励起準位構造と、その集団運動状態の性質を理解するためには、核反応実験による選択的な励起準位生成が有効であるとの結論を得た。この相互補完的な実験計画を、昨年度設立されたインピームガンマ線核分光研究プロジェクトSEASTARの一環として実施することを提案し、了承された。SEASTAR実験は2014年5月に実施予定であり、この相補的な共同研究との組み合わせにより、本研究の目的を今年度中に達成できると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品購入費は、主に実験機材とそのメンテナンス費用にあたる。計画当初と比べて、加速器の運転状況の変化とそれにともなう必要物品の優先順位に変化が生じたため、一部の物品購入は次年度使用額となった。 最終年度にあたる次年度に、購入予定の物品および旅費を支給額通り使用する予定である。
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