本研究課題は,弦理論を用いて結び目不変量をはじめとした,様々な幾何学的不変量を解析することを目指している.本研究の中核をなす課題の一つとして,結び目の量子不変量に対する圏化を,物理的手法,特に超弦理論を用いてアプローチし,数学的に得られた研究成果の物理的解釈を与えると同時に,新たな不変量の構築や他の幾何学的不変量との関係を探ることが目標である.弦理論の研究では,D-ブレーンや様々な双対性の発見により,その物理量と幾何学的不変量との関係がより親密となっている.その中でも,3次元多様体とその中に配置された絡み目に対する量子不変量は,弦理論の分配関数に対応するという予想が確立し,この対応を基に近年は弦理論を用いて,量子不変量の背後に内在する構造の研究が進められている.こうした構造の中でも,近年の研究で急速に明らかになってきたのは「圏化」と呼ばれる概念である.圏化の結び目不変量への応用は,10年程前にM.Khovanov氏によって提唱され,Jones多項式をはじめとした結び目の量子不変量の背後にある高次の圏構造が明らかとなった.その後,圏化の研究はトポロジーや代数の分野では研究が進められ,数多くの進展がもたらされてきた.一方,この圏化を弦理論からどのような形で理解し,実現できるのかという問題は,様々な弦理論の進展と共に徐々に明らかとなり,この2年間でその正体が「BPS状態」によって記述できる事が判明し,顕著な進展を遂げている.これまでの研究では,弦理論によって「色付きHOMFLYホモロジー」と呼ばれる,数々の量子不変量の圏化を統一的に取り扱うホモロジーが提唱され,このホモロジーの研究を推進してきた.本研究課題では,この研究をさらに推進し,弦理論の双対性を通じて,結び目不変量の圏化の新たな場の理論の枠組みによる実現を探ると同時に,「圏化」の概念を物理へ応用する問題にも取り組んだ.
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