研究課題/領域番号 |
25800138
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山崎 剛 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00511437)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 素粒子論 |
研究実績の概要 |
原子核の中に核子(陽子・中性子)を束縛する核力の起源は、クォークとグルーオンによる強い相互作用である。この事実を強い相互作用の第一原理である量子色力学から説明する事は、摂動論が適用できないため非常に難しい。我々は2009年から、強い相互作用の非摂動論的計算が可能な格子量子色力学を用いた数値計算により、クォーク・グルーオンの自由度から原子核の性質を直接調べる事を目的とした研究を続けている。現在、原子数4までの原子核の束縛エネルギー計算を行っているが、計算結果は実験値を再現していない。これらの束縛エネルギーは実験的に非常に良い精度で決定されており、それを再現できなければ、この計算に信頼性があるとは言えない。そのため、当該年度は、この計算の信頼性を確かめる研究に専念した。 束縛エネルギーの実験値との違いの主要な原因は計算に用いているクォーク質量が現実世界のものよりも重いためだと考えられる。クォーク質量を小さくできれば、クォーク質量起因の不定性は小さくなるが、そのぶん計算時間がかかるようになる。これまでの研究では、十分な計算機資源を確保できていなかったため、現実のクォーク質量よりも数倍重いものを用いて計算を行ってきた。当該年度はクォーク質量とともに束縛エネルギーがどのように変化するかを、重いクォーク質量の領域で調べる研究を行い、そのような領域では束縛エネルギーに大きな変化が無い事がわかった。この研究成果は論文としてまとめ学術雑誌に投稿した。 この研究結果から、束縛エネルギーのクォーク質量依存性は、現実のクォーク質量に非常に近い領域のみで現れる事が予想される。そこで、この予想を確かめるため、現実世界とほぼ同じクォーク質量での束縛エネルギーの計算を開始した。 当該年度はこの研究について、国際会議Lattice2014での基調講演を含む6件の国際・国内研究会で招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
強い相互作用の第一原理計算が可能な格子量子色力学を用いて、クォーク・グルーオンから原子核の性質を定量的に理解する目標に向かって、着実に研究は推進できている。特に、当該年度は原子数4以下の原子核束縛エネルギーが正しく実験値を再現できるか、つまりこの計算の信頼性を確かめる研究に専念し、中間報告としてこれまでの研究成果を論文としてまとめた。さらに、現実的なクォーク質量を用いた計算も開始した。この計算による束縛エネルギーが実験値を再現すれば、この研究で用いた計算方法の信頼性が確認できる。この信頼性が確かめられなければ、それら原子核よりも大きな原子核を計算しても、正しい結果が得られるとは限らない。そのため、原子数5以上の原子核の計算方法についての研究は、現時点では優先度を低くしている。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている現実的なクォーク質量で束縛エネルギーの計算を継続し、十分な統計精度の結果から実験値を再現するかどうかの検証を行う事が一つの目標になる。それと同時に、原子数5以上の原子核の計算方法についても研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の優先度が変わってきたため、当初予定していたワークステーションの購入を延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
一部は国際会議、国内研究会旅費に使用する。研究の進捗状況をみてワークステーションを購入する、もしくは、大型計算機資源の利用負担金にあてる。
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