研究課題
強い相互作用はクォーク・グルーオンをハドロンに閉じ込めるだけでなく、陽子・中性子(核子)が原子核内に束縛される核力の起源でもある。この強い相互作用の第一原理計算が可能な格子量子色力学(格子QCD)を用いて、クォーク・グルーオンから原子核の性質を定量的に理解する事が本研究の最終的な目標である。これまでに、ヘリウム4、ヘリウム3、重水素に関して、原子数4以下の軽原子核の束縛エネルギー計算を行い、実験値と同じオーダーの結果を得た。これらの結果は研究の初期段階としては好ましいものであったが、計算の信頼性を確認するためには、実験値を再現する結果を得る必要がある。しかし、そのような結果は未だに得られていない。この信頼性を確かめることができなければ、より大きな原子核の計算や、原子核構造の計算を行っても、それらの結果に信頼性があるとは言い難い。そのため、当該年度は、軽原子核束縛エネルギー計算の信頼性を確かめる研究に専念した。実験値を再現できていない理由の一つに、計算に用いたクォーク質量が現実よりも大きいことがあげられる。この系統誤差の大きさを調べるために、パイ中間子質量が300MeVで計算を行った結果、その質量ではこれまでの計算結果と大きな違いは見えないことがわかった。つまり、実験値を再現するためには、現実的なクォーク質量に非常に近いパラメータでの計算が重要である。この研究成果は、当該年度にPhysical Review Dに掲載された。この研究結果を踏まえ、現実的クォーク質量近傍での軽原子核束縛エネルギー計算を実行している。この計算では統計誤差を抑えることが非常に難しいため、統計的に有意な結果はまだ得られていないが、今後も計算を継続する予定である。また、今後、この信頼性が確かめられると仮定し、本研究を発展させた原子核構造研究へ向け、パイ中間子及び核子形状因子計算も実行した。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うちオープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件、 査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件、 招待講演 5件)
Proceedings of Science
巻: LATTICE2015 ページ: 081-1~7
巻: LATTICE2014 ページ: 009-1~20
Physical Review D
巻: 92, no. 1 ページ: 014501-1~12
10.1103/PhysRevD.92.014501