CERN の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でHiggs粒子が発見されたが、そのふるまいは素粒子標準模型と無矛盾である。一方、暗黒物質やニュートリノ振動の実験結果により、標準模型を超える新しい物理の存在も確実である。このような状況では、実験、理論の双方を用いて素粒子標準模型を精密に検証し、実験と理論のわずかな差違を探ることで、新しい物理への糸口をつかむボトムアップ型の研究が重要になる。本研究の目的は、強い相互作用を記述する量子色力学(QCD)を精密に理論計算するために、格子QCD数値計算の主な系統誤差である有限体積効果を精度良くコントロールすることにある。 平成28年度は、Dirac 演算子の固有値分布のうち、有限体積効果が小さいとあらかじめわかっている領域を使って、カイラル凝縮を精密計算することに成功した。カイラル対称性を保つメビウスドメインウォールを用い、大規模数値計算を実行、カイラル極限、連続極限、統計誤差の合計を中心値1.8%の精度でコントロール、カイラル凝縮の値を決定した。 また、有限体積効果をキャンセルする相関関数の比をとる方法で解析している、D中間子のセミレプトニック崩壊の研究も細かい格子での解析が進み、国際会議"34th International Symposium on Lattice Field Theory (Lattice 2016)"にて最新の結果を発表した。 また、QCDのトポロジー感受率についても、π中間子の質量と崩壊定数をかけたものの2乗との比をとることで、 有限体積効果を大幅にキャンセルできることが、カイラル摂動論の解析によってわかり、数%の精度での決定を近日中に発表できる見込みである。
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