研究課題/領域番号 |
25800148
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北澤 正清 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10452418)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 非ガウスゆらぎ / 高次キュムラント / バリオン数 / 重イオン衝突実験 / クォークグルオンプラズマ |
研究実績の概要 |
相対論的重イオン衝突実験において生成された高温物質の性質を探るために、保存電荷のゆらぎを活用する研究は近年実験・理論の双方から益々注目され、活性化している。この一年度の間にも、RHICではSTARが新しい実験結果を報告し世間を賑わす等、活発な動きがあった。本研究では本年度、このような世界的情勢を鑑み、高次キュムラントに関する研究を進めた。特に本年度は、昨年度まで行ってきた議論を精密化し、実験で得られた観測量をより正確に理解するための研究を推進し、興味深い成果を挙げることができた。例えば、昨年度までは重イオン衝突実験で生成された高温物質の体積が無限大であるという仮定の下に理論計算を行っていたが、本年度は物質の有限性を解析に取り込み、観測量への有限体積効果の影響を調べた。この結果、従来有限体積効果を取り込む公式として知られていた論文が間違っていることを示し、現在の観測値には有限体積効果の影響がほとんどないことを示した。また、この成果は論文として本年度中に発表することができた。これ以外にも、昨年までの拡散マスター方程式では取り込まれていなかった確率過程の非マルコフ性の考慮や、理論解析が対象とする時空ラピディティを、実験で観測する運動量ラピディティに換算する際に起こる問題などについて検討を行った。これらの研究については既に明解な結論が得られており、論文としてまとめる作業を行っている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、昨年度までに達成した拡散マスター方程式を用いたゆらぎの時間発展とその実験的検証に関する議論をさらに推し進め、精密化する研究で多くの成果を挙げることができた。具体的には、高温物質の有限体積効果の研究や、時間発展を確率微分方程式としてモデル化する際の非マルコフ性の考慮、従来無視されてきた、時空ラピディティと運動量ラピディティの区別を考慮することが実験データの解釈に与える効果の検討などである。また、これらの研究は、重イオン衝突実験分野で非ガウスゆらぎの問題が中心的課題となっていることと相まって世界的にも注目を集めており、私は本年度中にこの研究課題に関して、国内外から10回を越える招待講演を受けた。この中には、分野最大の国際会議である"Quark Matter 2014"でのplenary講演も含まれる。このように、本研究は分野の潮流の中において存在感を放っていると自負している。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、本研究はこれまで、極めて順調にインパクトのある研究成果を挙げることができている。今後はこの流れに沿って、これまで同様に研究を継続していくことを予定している。まずは、本年度挙げることのできた研究成果のうち、論文として未発表のものを早急に出版することが当座の課題である。またそれと同時に、QCD臨界点でのゆらぎを観測する際に考慮しなくてはならない臨界減速の問題など、新しい問題にも積極的に取り組んでいきたいと考えている。他方で、本研究の最終目的である、ゆらぎを用いたQCD相構造の理解を達成する上では実験家との連携が不可欠であるので、本研究で得られた研究成果を実験家と共有し、実験データからQCD相構造の情報を正しく抽出するための努力も積極的に行っていきたいと考えている。
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